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妻の様子がおかしい

シニアの体験シニアの恋

今回の話は、健一さんと妻桃子さんのお話です。それではお聞きください。

妻が脳梗塞になりました。その日はいつも通りの日曜日の静かな朝でした。そんな朝の空気を破るように、寝室から違和感のあるドンドンという音が聞こえてきたんです。慌てて妻の元へ駆け寄ると、そこには見慣れない彼女の姿がありました。妻の口は動いているのに、声が出ていません。「何か言っているのか?」と問いかけても、返ってきたのはうめき声だけ。今まで一度も聞いたことがない声でした。何かがおかしいと直感しました。

手は震えていましたが、とにかく救急車を呼びました。右半身が動かないという感じでした。けれど、高齢の私には2階の寝室から彼女を運び出すことができません。妻は苦しそうにこちらを見つめていました。声を出そうとしても出ない、その姿がどうしようもなく痛々しく、何もしてあげられない自分が情けなくて仕方がありませんでした。彼女の冷たくなり始めた手を強く握りしめ、「大丈夫だ、すぐ救急車が来るから」と声をかけました。そう言っている自分を信じたい気持ちでいっぱいでした。

遠くから、かすかに救急車のサイレンが聞こえ始めました。「ああ、早く来てくれ」いつもならサイレンなんてすぐに過ぎ去る音が、この時はやけに遅く感じて、人生で一番長く感じる15分でした。彼女の手はどんどん冷たくなっていく。それが怖くて、何度も妻の名前を呼びました。

救急車が到着し、隊員たちが彼女をベッドから運び出すまでの間、私は現実感が無くただその光景を見つめていました。近所の人たちが集まって声をかけてくれましたが、正直何を言われたのかほとんど覚えていません。現実感が薄れ、まるで夢の中にいるような感覚でした。ただ、妻が救急車に乗せられる姿を見たとき、胸の奥で何かがぐしゃっと崩れ落ちる音が聞こえたような気がしました。

救急車に一緒に乗り込み、救急隊員によってすぐに処置が始まりました。ようやく少しだけ安心できたのか、娘たちに連絡をすることができました。病院に着くと、すぐに検査が始まり、しばらくして医師から「脳梗塞です」と告げられました。その言葉が耳に入った瞬間、頭の中が真っ白になりました。まさか、あの元気だった妻が…。どうして?という疑問ばかりが浮かび、ただその場に立ち尽くすことしかできませんでした。

幸い、処置が早かったおかげで、妻はすぐに話せるようになりました。医者の話では、右半身に少し麻痺が残るものの、今の所命に別状はないとのこと。ただ、この3日間は安心できないので、集中治療室に入ってもらうとのことでした。ほんの少しだけほっとしましたが、心の中にはまだまだ大きな不安が残りました。これから妻は元のように戻れるのか、それともずっとこのままなのか、希望と不安が交錯し、どうにもならない気持ちに襲われました。

その後、娘が病院に駆けつけてくれた時、少しだけ気持ちが楽になりました。妻と短い会話ができたこと、妻の顔にも少しの笑顔が出てきたこと、それだけで張り詰めていた心が少しほどけた気がしました。やっと、「大丈夫だ」と心から思えた瞬間でした。

でも、そこからが大変でした。妻が入院している間、私達は自宅に戻って、必要なものを取りに行くことになりました。妻の服や洗面用具などの入院の荷物を用意するだけで、かなりの時間を要するとは思いませんでした。普段から家のことは妻に任せっきりだったんだなと、その時初めて実感したんです。

実は、普段から家事はそこそこやっているつもりでいたんです。ゴミ捨てや洗濯、掃除なんかも分担してしていました。ただ、今回ちょうど模様替えの季節になり、秋物の服がどこにあるのか、掃除用品の替えがどこにあるのかそんなことすら分かりませんでした。食事の準備、掃除、洗濯などいざ妻がいなくなると上辺だけの手伝いだったのかなと改めて思います。特に何をどこにしまっているのかがさっぱりわからなくて…。毎日がもたついている感じでした。

 妻がいないと、家の中はがらんとして、どこか冷たく感じるんです。彼女の存在が、こんなにも大きかったなんて。唯一の救いは、娘が毎日晩ご飯を作りに来てくれたことでした。娘夫婦と一緒に食卓を囲む時間だけが、心の支えになっていました。

そんな時、娘が「お母さん、『お父さん一人だとボケちゃうから、たくさん話しかけてあげてね』って言ってたよ」と笑いながら話してくれました。その言葉が、胸に深く突き刺さりました。私たち夫婦は年が6つ離れているんです。これまでずっと一緒に過ごしてきた日々が、当たり前のように続くと思っていました。でも、今回の出来事で、その当たり前がいかに脆く、儚いものだったのかを思い知らされました。妻がいない家は、こんなにも寂しいなんて。

夜、一人で家にいる時間が一番寂しいです。妻の声が聞こえない静かな家は、どこか時間が止まってしまったかのように感じます。あの明るい声や笑顔がないだけで、家全体が暗くなったように思えるんです。
昔から冗談半分で「俺が先に逝きたい」とはよく言っていましたが、今回ばかりは本気でそう思いました。もしも妻が先にいなくなったら、私はどうなってしまうんだろう、と。正直、そんなことを考えるのが怖いくらいです。それほど、彼女の存在は私にとって大きなものなんです。
今回のことは、私にとっても大きな出来事になりました。幸い、妻はかなり回復しました。医者からは「95%ほど回復している」と言われ、麻痺もほとんど残っていません。奇跡的だと思います。これからも、彼女と一緒に元気で過ごしていけたら、それだけで十分です。早く退院してきてくれるのが待ち遠しいです。

娘二人に気を使わせてしまっているのも申し訳ない気持ちで一杯です。
私はまだまだ若いと自負していますし、妻にももっと元気になってもらって、これからも一緒に穏やかな日々を過ごしていきたい。そう願っています。もう、一人で静かな家にいるのは、たくさんですから。

いかがでしたでしょうか?健一さんのお話でした。歳を取ると急にいろんなことが起きてしまいますよね。今が当たり前、と思わないように行動と取りたいですね!

ぜひ、高評価頂けると嬉しいです。

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