僕の名前は神田太郎。38歳、介護施設で働く独身男だ。日々、利用者の方々の世話をしながら過ごしているが、特にこれといった趣味もなく、淡々とした生活を送っている。仕事にはやりがいを感じているものの、同僚から「真面目すぎて空回りしてる」と皮肉交じりに指摘されることも多い。不器用な自分に嫌気が差すこともあるが、それでも自分なりに頑張っているつもりだ。
そんな僕にとって、職場での密かな楽しみは主任の北沢愛さんの存在だ。彼女は42歳、既婚者だが、その美しさは周囲を圧倒するほどで、職場では憧れの的になっている。長い黒髪に整った顔立ち、そして透き通るような白い肌。まるで女優のような存在感がある一方で、彼女の持つ柔らかな微笑みは、人を自然と安心させる力を持っている。
しかし、なぜかみんなは気付いていないが、僕だけが知っている彼女の秘密がある。それは、彼女が意外にもドジっ子だということだ。朝礼で資料を床にばら撒いたり、利用者への配膳でお盆をひっくり返したりする姿を、僕は何度も目撃している。そんな彼女の完璧ではない一面に、僕は妙な親近感を覚え、気づけばそのギャップに惹かれていた。
数ヶ月前のある日、僕は利用者対応でミスをして落ち込んでいた。そんな僕に、愛さんがふと声をかけてきた。「神田君、どうしたの?元気ないね。」その優しい声に、僕は一瞬で心の重みが軽くなった。「ちょっと失敗しちゃいまして……」と答えると、彼女は微笑みながら「じゃあさ、今夜飲みにでも行く?」と誘ってくれた。
人妻である彼女からの突然の誘いに、僕は驚きつつも頷いていた。心の中では「これはただの気遣いだ」と思い込もうとしていたが、それでも彼女と二人きりで過ごせる時間に期待を抱かずにはいられなかった。
その夜、居酒屋での愛さんは、職場で見せる顔とは違っていた。仕事中は毅然としている彼女が、グラスを片手に柔らかい笑みを浮かべている。その姿が、僕の胸を高鳴らせた。「思った以上にプレッシャーが多いのよね。期待に応えなきゃって思うと、自分に余裕がなくなっちゃうのよね。」そう語る彼女の表情に、普段は見えない脆さが垣間見えた。
「神田君も、たまには肩の力を抜いてみたら?」そう言って微笑む彼女の顔は、職場で見るどんな笑顔よりも優しかった。その瞬間、僕は彼女に恋をしていることをはっきりと自覚した。
その夜から、僕の中で愛さんの存在がさらに大きくなっていった。そんな時、施設長から突然の呼び出しがあった。「来週、北沢主任と一緒に災害ボランティアに参加してくれないか?うちからも出さないと駄目なんだよ」その言葉を聞いた瞬間、「はい!行きます!」と即答し、心の中では小さくガッツポーズをした。愛さんと二人きりで過ごす時間が増える。胸が高鳴るのを抑えられなかった。
出張が近づくにつれ、愛さんと過ごす時間が増えていったが、彼女はどこか神経質な様子だった。ある日、彼女はポツリと「もしかしたら参加できないかも」と漏らしてきた。どうやら彼女の夫は嫉妬深い性格らしく、今回の出張についても猛反対され、夫婦喧嘩に発展してしまったらしい。
「本当にこれで良かったのかな……」彼女のその言葉に、僕は彼女が抱える家庭の問題の深さを知った。彼女を慰めたい気持ちはあったが、人妻である彼女にこれ以上踏み込むべきではないと、心の中でブレーキをかけた。
そして迎えた出張初日。仕事が終わった後、愛さんが「少し飲みに…でも行く?」と誘ってくれた。僕たちは小さな居酒屋に入り、静かに飲み始めた。彼女はグラスを傾けながら「家に帰っても夫と喧嘩ばかりで……本当に疲れちゃうの」と弱音を吐き出した。その言葉に、僕は彼女がどれだけ心に負担を抱えているのかを知り、胸が痛んだ。
彼女の目に涙が浮かんだのを見て、僕は慌ててハンカチを差し出した。「無理しないでください。愛さんは十分頑張っていますよ。」そう言うと、彼女は涙を拭きながら微笑んだ。「ありがとう。神田君は優しいね。」その言葉に、僕の胸の奥が熱くなった。
しかし、その後、僕は酔いの勢いで「抱きしめて良いですか」と口走ってしまった。愛さんは驚いた表情を見せ、次の瞬間には厳しい声で僕を叱った。「な、何言ってるのよ。ありえないでしょ。私は人妻なのよ。」その言葉に、僕の酔いは一瞬で冷めた。気まずい雰囲気の中、その夜は静かに幕を閉じた。
翌朝、僕と愛さんは早朝からボランティア施設に向かった。昨夜の気まずさを引きずりながら、彼女と顔を合わせるのが少し怖かった。しかし、愛さんはいつものように穏やかに微笑み、「今日も頑張ろ」と声をかけてくれた。その優しさに、昨夜の軽率な行動への後悔がさらに強まった。
仕事は順調に進み、予定していた成果をすべて達成することができた。施設長からも高く評価され、愛さんも「神田君がいてくれて本当に助かったわ」と満面の笑みを見せてくれた。その笑顔に胸が温かくなると同時に、「もっと彼女を支えたい」という気持ちが湧き上がった。
愛さんが「明日でおわりだね。今日も付き合ってくれる?」と誘ってきた。昨夜のことが頭をよぎり、一瞬躊躇したが、彼女の表情には柔らかさがあり、安心感を与えてくれた。僕は頷き、再び居酒屋へと足を運んだ。
その夜の愛さんは、職場では見せないリラックスした姿を見せていた。髪を下ろし、柔らかな微笑みを浮かべた彼女の雰囲気に、僕は心を奪われた。彼女はグラスを片手に、少しずつ胸の内を語り始めた。
「今回は本当にありがとう。君と一緒にいると、少しだけ気持ちが楽になったわ。」彼女のその言葉に、僕は一瞬戸惑いながらも、嬉しさを感じた。そして同時に、彼女をもっと守りたいという思いが強くなっていくのを感じた。
夜も更け、愛さんは酔いが回って机に伏せてしまった。「そろそろ帰りましょう」と声をかけると、彼女は朦朧とした声で「動けないから、連れて帰って」と甘えた声で囁いた。仕方なく、僕は彼女をおんぶして宿へと向かった。
彼女の胸のふくらみが背中を通して伝わり、心臓が激しく鼓動するのを感じた。さらに、歩くたびに感じる彼女の柔らかさに、理性を保つのが精一杯だった。宿に着くと、僕はそっと彼女をベッドに寝かせ、布団をかけた。しかし、乱れた服の襟元から覗く白い肌に、一瞬視線が止まってしまった。
その瞬間、手を伸ばしたいという衝動に駆られたが、昨夜の彼女の厳しい言葉が頭をよぎり、僕は必死で理性を取り戻した。部屋を出ようとしたその時、「待って……」という小さな声が背後から聞こえた。
振り返ると、愛さんが涙を浮かべながら僕を見つめていた。「一人にしないでよ……寂しいよ。」その言葉に、僕の中で何かが弾けた。そして次の瞬間、彼女がそっと僕の手を取り、自分の方へ引き寄せた。
「神田君……」彼女の瞳に宿る切ない輝きに、僕は抗うことができなかった。そして気づけば、僕たちは唇を重ねていた。彼女の震える指先が僕の頬に触れるたびに、胸の中の熱が高まっていくのを感じた。その夜、僕たちは一線を越えた。彼女の抱える孤独に触れ、彼女を包み込むように寄り添った。彼女もまた、僕に身を委ねるように全てをさらけ出してくれた。背徳感と幸福感が交錯する中、僕たちは全てを忘れるかのように熱くて長い一夜を共にした。
出張後、職場での僕たちの関係は表面上変わらなかった。愛さんはいつものように笑顔で仕事をこなし、僕も普通を装っていた。しかし、ふとした瞬間に、あの夜の記憶が蘇り、胸が締め付けられる思いに駆られることがあった。
そんなある日、施設長から再びボランティア出張の話を持ちかけられた。「今回も北沢主任と一緒に行ってほしい。向こうで評判が良かったんだよ」その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく鼓動した。隣には微笑む愛さんの姿があった。
「よろしくね、神田君。」彼女のその言葉に、僕はまた新たな物語が始まる予感を感じていた。
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