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初キス

いつまでも若く感動純愛
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加藤拓海は大学を卒業を中学校の教師をしている。毎日、生徒たちと向き合いながら過ごしているが、ふと一人になったとき、心の中にわずかな空白を感じる。それは奈々という幼馴染の存在が今でも拓海の胸を占めているからだ。奈々は拓海の隣の家に住んでいた。幼稚園から高校まで一緒で、どこに行くにも自然と隣にいた存在だった。明るくて、いつも周囲の中心にいる彼女に、拓海は密かに恋をしていた。大学進学で地元を離れるとき、思い切って告白をした。だが、奈々の返事は「距離が近すぎて、異性として見られない」というものだった。大学卒業後しばらくしてから、両親から「奈々が結婚するらしい」と聞かされた。
「良いのかい?」と母に聞かれたが、「俺は振られたんだから仕方ない」と答え、諦めようと努力した。しかし、奈々への想いは完全には消えず、既に10年が過ぎていた。自分でもショックだったのか気付けば、仕事を理由にして実家に帰ることすら避けていた。
そんなある日、母親から祖父が亡くなったとの連絡を受ける。祖父の死という突然の知らせに胸を痛めつつ、拓海は地元へと帰る決心をした。

通夜の日、久しぶりに実家に戻った拓海は、親戚たちに囲まれながらもどこか落ち着かない気持ちでいた。奈々も来るかもしれないという予感があったからだ。予感は的中した。玄関先で親戚に挨拶をしていると、ふと視線の先に奈々が立っているのが見えた。黒い喪服に身を包んだ奈々は、大人の落ち着いた雰囲気をまといながらも、昔と変わらない笑顔を浮かべていた。
「久しぶりだね、たっくん。」
その声に胸がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えた。だが、拓海はあえて笑顔を返すこともなく、少しよそよそしく「あぁ。久しぶり」とだけ答えた。ただ、その場に居づらく、奈々と深く話すことを避けるように、その場を離れた。
通夜が進む中、拓海はふと縁側に出て庭を眺めていた。静かな夜風が心地よいが、心は落ち着かなかった。すると、後ろからそっと足音が聞こえた。
「ここにいたんだ。」
振り返ると、奈々がそこに立っていた。少し緊張した面持ちで、拓海の隣に腰を下ろした。2人で黙ったまま、しばらく庭を眺めていた。
「結婚したんだってな。おめでとう。」拓海が静かに口を開いた。奈々は一瞬戸惑ったような表情を浮かべたが、何も答えなかった。そのまま沈黙が続き、ようやく奈々がぽつりと言った。

「結婚なんて、してないよ。」
「は?」拓海は驚き、奈々の顔を覗き込む。だが奈々はそれ以上何も言わない。ただ、少し俯き加減にしているだけだった。
戸惑う拓海が次の言葉を探していると、奈々がふいに顔を上げた。そして、何も言わずに拓海に近づき、そっと唇を重ねた。驚きで体が硬直する拓海だが、その瞬間、心の奥にあった欠けたピースが埋まるような感覚を覚えた。しかし、奈々はすぐに顔を背け、小さく呟いた。

「ごめん。不謹慎だよね……」それだけ言うと、奈々はその場から走り去っていった。拓海はその後ろ姿を追うこともできず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

翌日、実家を離れる日、奈々が静かに近づいてきた。そして、小さな封筒を拓海に差し出した。
「これ、読んで。」奈々はそう言い残し、またその場を立ち去った。封筒の中には便箋が入っていた。拓海は家に戻ってからそれを開いた。
手紙には、奈々の本音が綴られていた。
「大学のときの告白、本当に嬉しかった。でも、断ったつもりはなかったの。ただ、戸惑ってただけなの」
「帰ってこないから、おばさんと一緒に嘘をついて『結婚する』なんて言ってごめん。ただ、たっくんに帰ってきてほしかったんだ。」
「久しぶりに会って、やっぱり私はたっくんのことが忘れられないって気づいた。」
「そして私も来月から関東で働く予定です。」

拓海は手紙を何度も読み返し、奈々の言葉に心を揺さぶられた。迷いを抱えながらも、奈々にもう一度向き合うべきかどうかを考え続けた。
奈々の手紙を何度も読み返すたびに、拓海の心の中で何かが変わり始めていた。大学時代の告白を断られたときの苦しさ、実家を避け続けた10年間の孤独、そして通夜で再会した奈々とのキス。それらすべてが、奈々への想いをさらに鮮明に浮かび上がらせていた。
「このままじゃダメだ。」拓海は心の中で決意した。今度こそ、自分の想いを伝えたい。これ以上後悔したくない。奈々が東京で新しい生活を始めると言うなら、自分もその一歩に向き合うべきだ。そう思った拓海は、奈々が東京に引っ越してくる日、母に場所を聞き、意を決して彼女の家の近くに向かった。

東京の夕方、ビルの間から差し込む夕日が街を赤く染めていた。拓海は人混みを避けるように小さな路地に立ち、奈々の姿を探していた。ふと、遠くに小柄な女性が立ち止まるのが見えた。その瞬間、胸が高鳴る。「奈々……?」物心ついた時には大好きだった奈々だった。どこか緊張した表情で、通りを歩いている。
「奈々!」拓海が声をかけると、奈々が立ち止まり、驚いた顔で振り向いた。その瞬間、彼女の表情がぱっと柔らかくなり、駆け寄ってきた。
「たっくん?どうしてここに……?」少し息を切らしながら問いかける奈々に、拓海は笑顔で答えた。
「話したいことがあってさ。ちゃんと向き合おうと思って。」その言葉に奈々の目が潤む。彼女は言葉を詰まらせたまま、静かにうなずいた。
「じゃあ、少し歩こうか。」拓海がそう言うと、奈々は頷き、隣に並んで歩き始めた。東京の街の喧騒が2人の間には奇妙に静かに感じられた。
歩きながら、2人はゆっくりと話を始めた。手紙に書かれていた内容を掘り下げるように、奈々は不器用に自分の気持ちを拓海に伝えた。
「大学のとき、たっくんが告白してくれたの、本当に嬉しかったのよ。でも、近すぎる関係が壊れるのが怖くて、あんな返事をしてしまったの。あの時、もっと素直になれたら……。」
拓海は奈々の言葉を静かに聞いていた。そして、立ち止まり、彼女の方をまっすぐ見つめた。
「俺はずっと奈々が好きだった。でも、自分の気持ちを閉じ込めて、ずっと逃げてた。でももう、逃げるのはやめたい。」そう言いながら、拓海はそっと奈々を抱き寄せ、唇を重ねた。奈々もそれを受け入れ、自然と目を閉じた。ゆっくりと離れると、奈々が顔を赤らめながら小さな声で呟いた。
「もうこんな歳になったけど……あの時のキス、私の初キスだったんだよ。」拓海は驚いたが、「俺もだよ。じゃあこれで2回目だな。これから今までの遅れを取り返さないとな」
照れ笑いを浮かべながら拓海はその後、何度も何度もキスをした。

「奈々。好きだよ。今までも。これからも。」拓海の言葉に奈々は深く頷き、そっと彼の肩に頭を預けた。
2人の間に流れる時間は、10年という距離を一瞬で埋めたようだった。遠くに見える街灯が静かに点灯し始め、夜の始まりを告げている。2人はその灯りを目指すように歩き出した。これから先、共に歩む未来を描きながら。

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