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後妻~父さんから紹介されたのはまさかの

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父から電話があったのは、平日の夕方だった。いつもなら、要件を手短に伝えてさっさと切る父が、妙に言葉を選びながら話している。それだけで、胸の奥に嫌な予感が広がった。
「弘道、週末に実家に戻ってこられるか?ちょっと話がある」俺は一瞬黙った。話がある。そんな曖昧な言い方をする父じゃない。それが気になって、つい慎重に言葉を選ぶ。
「……何かあったのか?」「いや、まあ、そう深刻なことじゃないんだが……実はな、再婚することにしたんだ」その言葉が、俺の胸に冷たい刃のように刺さった。再婚。父が?
「え?再婚って……」
「細かい話は会ってからだ。大事なことだから、ちゃんと顔を合わせて伝えたいんだ」父の声は、いつもより少しだけ弾んでいるように聞こえた。俺はなんとか落ち着きを装いながら答えた。
「……わかったよ。土曜日に帰るよ」電話を切った後、俺はしばらく携帯を握りしめたまま動けなかった。再婚。それは悪いことじゃない。母を亡くしてからずっと一人で俺を育ててくれた父に、もう一度幸せになってほしいと願っていたのも事実だ。でも、どうしてこんなざわつく気持ちになるんだろう。
土曜日の朝、俺は重い足取りで実家へ向かった。玄関を開けると、懐かしい香りが鼻をくすぐる。父が台所で何かを煮込んでいるらしい。エプロン姿の父を見て、少しだけ肩の力が抜けた。
「おう、弘道。よく来たな。まあ、座れ」父は笑顔で俺を迎えると、俺をリビングのソファに促した。少し緊張しながら腰を下ろす。台所から軽い足音が聞こえた瞬間、俺は息を呑んだ。その足音が、妙に耳に馴染む音だったからだ。
「こんにちは」その声を聞いた瞬間、目の前の景色が一瞬でぼやけたように感じた。そして、目の前に現れた彼女――真理を見たときに、俺の中で時間が止まった。
「真理……?」呟くような声が漏れる。彼女も驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに微笑みを浮かべた。
「真理です。よろしくお願いします」父が横から嬉しそうに声を弾ませる。
「紹介するよ。彼女が俺の再婚相手だ」頭の中が真っ白になった。真理。かつて俺が愛した女性。25歳の頃、俺が初めて付き合った人。そして、初めての恋人。忘れることなんてできなかった、俺にとって特別な人だ。俺は彼女のことが忘れられずあれ以降誰とも付き合っていない。いや、付き合えない。それくらい引きずっていた。
でも、そんな彼女が、今は父の隣にいる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」俺はようやく搾り出すように声を出した。それ以上何も言えなかった。真理も、それ以上の言葉を発しなかった。ただ、視線だけが交わった。その瞬間、胸の奥に封じ込めていた感情がざわつく音を立てた。
その夜、父は上機嫌で酒を飲みすぎて寝てしまった。俺は彼をベッドまで運び、リビングに戻ると、真理が一人でソファに座っていた。
「お父さん、嬉しそうだったね」彼女がぽつりと呟いた。その声は、かつて何度も耳にした声だった。柔らかく、けれど、どこか寂しさを帯びている。
「いつ、親父と出会ったんだ?」俺は何気なく尋ねたが、その答えを聞くのが怖いような気もした。真理は少し間を置いてから答えた。
「3年前。たまたま仕事先で会ったの。話しているうちに、気が合って……それから少しずつ」
その言葉が胸に重く響いた。父と真理が親しくなる過程を想像してしまう。そのたびに、胸の奥で古い傷がずきずきと疼いた。
「…おめでとう…」絞り出すように言ったその言葉に、真理は小さくうなずいた。それ以上何も言わない俺たちの間に、沈黙が漂った。何かを言いたいのに言えない、そんな感覚が苦しかった。
「そろそろ帰るよ」俺は立ち上がり、さっさと玄関へ向かった。振り返ると、真理が小さく「ありがとう」と言った。その声は、あの頃の彼女そのものだった。
その後、俺は実家に足を運ぶのを避けるようになった。父からの連絡にも、「忙しい」と適当な理由をつけて断った。真理と顔を合わせるのが辛かった。彼女が父と幸せに暮らしている姿を見るのが怖かった。
でも、それを口に出すことはできない。自分の感情が許されないものだと分かっているから。真理と父が再婚してから、俺はずっと実家を避けていた。彼女が父の妻になったという現実が受け入れられないまま、時間だけが過ぎていった。

そんなある日、真理から電話がかかってきた。
「弘くん……お父さんが倒れたの」その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に抑え込んでいた感情が一気に押し寄せた。父が倒れた?動揺する俺に、真理の震えた声が続く。
「脳出血だったの。幸い命に別状はないけど……右半身に麻痺が残ってて…」電話を切ると同時に、俺は着替えもそこそこに実家へ向かった。病院で見た父の姿は、かつての力強さを失っていた。どこか小さくなり、弱々しくなった父。それでも俺を見ると、少しだけ微笑んでみせた。
「すまんな、弘道。迷惑をかけるなぁ」その言葉に、胸が締め付けられた。迷惑なんて思わない。ただ、あまりにも変わり果てた父の姿が、どうしても受け入れられなかった。その一方で、父を支える真理の姿が目に入る。彼女は弱音ひとつ吐かず、献身的に父の世話をしていた。その姿を見るたびに、俺の中の罪悪感が膨れ上がる。父が退院してからも、真理の献身は続いた。彼女は仕事を減らし、ほとんど家にいて父の介護をしていた。俺もできる限り実家に顔を出し、父の手伝いをしたが、それ以上に、真理の存在が胸を締め付けた。
ある日、父がぽつりとこう言った。「弘道、頼む。一緒に暮らしてくれないか。俺一人の世話を彼女に任せるのは、申し訳ないんだ」その言葉に、俺は息を呑んだ。真理と同じ屋根の下で暮らす。それがどれだけ危険なことか、自分が一番分かっていた。けれど、父の頼みを断ることもできなかった。
「……わかったよ、親父」そう答えた瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられるように痛んだ。同居が始まると、俺は真理を日常的に目にするようになった。台所で料理をする後ろ姿、父の世話をする穏やかな手つき。そのひとつひとつが、俺の記憶を呼び覚ます。忘れたはずの感情が、日に日に膨れ上がっていく。そんなある夜、父が早めに寝た後、俺はリビングで一人、酒を飲んでいた。真理が静かに降りてきて、隣に座る。
「疲れてるんじゃない?無理しなくていいのよ」彼女が優しく声をかける。その言葉が、胸に刺さった。俺は視線を避けるように天井を見上げながら、口を開いた。
「どうして、逃げないんだ?」真理は驚いたように俺を見たが、すぐに視線を落とし、小さく微笑んだ。
「お父さんがいるから。それが私の居場所だから」居場所。その言葉が俺を苛立たせた。彼女の居場所が、父との関係に基づいている。それがどうしようもなく俺を傷つけた。
「本当に、それだけなのか?」自分でも驚くほど低い声が出た。真理は驚き、わずかに体をこわばらせた。そして、震える声で呟いた。
「……私だって…」その言葉に俺は動揺し、彼女を振り返った。真理の目には涙が浮かんでいる。その姿を見た瞬間、俺の中の理性が崩れた。
「真理……」俺は手を伸ばし、彼女の肩を掴んだ。そのまま彼女を引き寄せ、抱きしめる。
「もう抑えられない。ずっと、忘れられなかったんだ」真理は震えながらも、俺を突き放そうとはしなかった。彼女が静かに目を閉じた瞬間、俺は彼女の唇に触れた。その感触が、胸の奥で燻っていた想いを一気に燃え上がらせた。
真理は涙を流しながらも「私はお父さんの嫁なんだよ…」と言いながら手を背中に回してきた。

翌朝、真理はいつものように朝食を作り、穏やかな笑顔を浮かべていた。まるで昨夜のことなどなかったかのように振る舞うその姿が、俺の心をさらに締め付ける。
「おはよう、弘くん」彼女の微笑みは、変わらず穏やかだった。俺は「おはよう」とだけ返し、いつも通りの朝を装った。

だが、心の奥では、昨夜の記憶が何度も繰り返されていた。俺たちの間に交わされた言葉と行為。そのすべてが、忘れることのできない傷として刻まれていくのを感じていた。

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