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禁断介護

いつまでも若く禁断背徳
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夫の翔太の海外転勤が決まった時に「しばらく父さんの世話を頼む」と軽い調子で言ったとき、私は一瞬言葉に詰まった。義父・忠雄さんの介護。それは簡単な話ではない。義父は数年前の事故で下半身が不自由になり、車椅子生活を送っている。一人暮らしを続ける義父の家に、住み込みで彼の世話をする。翔太にとって、それは自然な流れだったのかもしれないけれど、私にとってそれは、日常が大きく変わることを意味していた。

「無理はしなくて良いからさ。出来る限りそばにいてくれるだけでいいからさ。」彼の言葉はそう付け加えられたけれど、気楽そうな声が余計に重く感じられた。これから義父と二人きりの生活がどんなものになるのか、私は全く想像がつかなかった。義母がいなくなった忠雄さんの家は、静かで広々としていた。長い廊下の端に差し込む陽の光は冷たく、古びた家具や飾られた写真が、どこか時間が止まっているような感覚を与えた。義母が亡くなった後、忠雄さんがこの家で一人過ごしてきたことを思うと、なんだか胸の奥がざわついた。
「さくらさん、来てくれてありがとうね。」玄関で車椅子に座ったまま微笑む忠雄さんの声は、穏やかで優しかった。その微笑みは控えめで、どこか寂しさを含んでいるように見えた。私は思わず背筋を伸ばし、「こちらこそ、よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げた。義父である彼にこんなに近づくのは初めてだったけれど、その静かな佇まいに、私はどこか圧倒されるような感覚を覚えた。
「すまないねぇ。極力自分でするから。」その言葉は、本当にそう思っているのだろうけれど、同時に彼の中にある孤独を強く感じさせた。私はぎこちなく微笑み返しながら、「お義父さん、何でも言ってくださいね」と答えた。けれど、その時の忠雄さんの表情が、私の胸に何とも言えない重さを残した。
こうして始まった同居生活は、思った以上に静かで、規則正しかった。朝は忠雄さんの身支度を手伝い、昼には車椅子を押して庭へ出る。食事の準備や片付け、そして夕方にはテレビを一緒に見る。そんな穏やかな日々の中で、私は次第に義父の存在を特別なものとして感じるようになっていった。介護は思ったよりも大変だったけれど、忠雄さんは何事も遠慮がちで、自分でできることは自分でやろうとしてくれる。それがありがたい半面、彼の寂しさや無理をしている姿が、私の心に重く響くこともあった。

ある日の午後、私は彼の入浴介助をすることになった。今までは介護士に頼んでいたのだけれど、今回初めて私がしますと宣言した。介護士に頼んでくれないかと言っていた忠雄さんだったけれど、「さくらさんがそう言うなら」と渋々了承してくれた。けれど、浴室に入ると、私は自分の鼓動が大きくなっていくのを感じた。
「こんなことを頼むなんて、本当に申し訳ないね……ま、前は自分で洗えるから…」湯気の中で、忠雄さんが恥ずかしそうに呟いた。その声に思わず振り向くと、そこにいるのは義父でありながら、それだけではない存在のように見えた。老いを感じさせる背中の線が、どこかしっかりとした筋肉を残しているのが目に入った。
「いえ、大丈夫です。お義父さんのことは私がちゃんとしますから。」私はそう言いながらタオルを手に取り、彼の背中にそっと触れた。タオル越しに伝わる彼の肌の温もりが指先に広がり、胸が軽く高鳴るのを感じた。その瞬間、自分が何を考えているのかに気づき、慌ててその思考を振り払おうとしたけれど、それは簡単には消えてくれなかった。
「すまないね、こんな世話をかけて。」忠雄さんの声は優しく、それが余計に胸に響いた。彼の言葉には感謝と申し訳なさが混じっていて、それが私の中でどうしようもない感情を引き起こした。その夜、私は布団の中でそのときの感覚を思い返していた。義父の背中に触れた瞬間、私の中で何かが変わり始めているのを感じた。彼を義父として見るべきだという理性と、それを超えて何かに惹かれてしまう自分がいた。その感覚が恐ろしくて、同時にどこか私の体が熱くなる。
 雨が窓を叩く夜、キッチンで片付けをしていたとき、背後から車椅子の音が聞こえた。振り返ると、忠雄さんがテーブルに置かれた湯呑を取ろうとしていた。その手の動きは危なっかしく、私は慌てて駆け寄った。
「お義父さん、危ないですよ!」その瞬間、忠雄さんがバランスを崩し、私は彼を支えようとして二人とも床に倒れ込んでしまった。私の体は忠雄さんの胸に覆いかぶさる形になり、二人の顔が間近に迫る。雨音だけが響く中、私はその目を見つめてしまった。
「……すまん、わしのせいで。」震える声で謝る忠雄さん。その顔には申し訳なさと戸惑いが浮かんでいて、私は胸の奥に不思議な痛みを覚えた。その瞬間、私の中で何かがはじけた。
気づけば、私は彼に顔を近づけ、唇を重ねていた。それはほんの一瞬だったはずなのに、その時間は永遠のように感じられた。離れると、忠雄さんは何も言わず、ただ私を見つめていた。その目の奥に浮かぶ感情は、私がこれまで見たどんな表情よりも深く、そして切なかった。
「お義父さん……私がしますから、大丈夫です。」自分でも驚くほど自然な声が出た。忠雄さんは目を伏せ、何かを飲み込むように小さく頷いた。その仕草に、私の胸の中に生まれた感情がさらに膨らんでいくのを感じた。

翌日、雨が上がり、久しぶりに晴れ間が見えた。庭に出ようと提案すると、忠雄さんは「こんなにいい天気なら、外に出るのも悪くないな」と微笑んだ。その笑顔はどこか穏やかで、私は自然と顔がほころんだ。庭に咲く花々が風に揺れ、木漏れ日が優しく私たちを包む。車椅子を押しながら、私はふと忠雄さんの横顔を見つめた。その顔には、言葉では表せない何かが浮かんでいた。

「もし、わしがもっと若かったら……君にもっと違う形で感謝を伝えられたかもしれないな。」その声は静かで、どこか遠くを見つめるようだった。その言葉に、私は胸が締め付けられるような気持ちになった。

「お義父さんがいてくれるだけで、私は十分幸せですよ。」私は微笑みながら彼の手をそっと握った。その手は少し震えていたけれど、確かな温もりを持っていた。私もその手を握り返しながら、心の中で何かが満たされていくのを感じた。

二人の間にはそれ以上の言葉は必要なかった。ただ、庭に咲く花々が風に揺れ、鳥のさえずりが聞こえる中、私たちは静かにその場に佇んでいた。その瞬間、私はこの穏やかな時間が永遠に続けばいいと心から願った。

それからの日々、私たちはお互いを支え合うように生活を続けた。言葉にしない感情は確かにそこにあったけれど、それを超えることはなかった。しかし、その絆は言葉以上に深く、私たちをつなぎ留めていた。庭の花が枯れ、また咲く季節が巡っても、この記憶だけは決して色褪せることはないだろう。

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