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女医の秘密

譲二は病院の総務課で働いていた。彼は仕事に対する誇りと責任感を深く持っており、常に丁寧に仕事をこなそうと心掛けていた。しかし、彼の物覚えの悪さが時に同僚からの冷ややかな視線を招くこともあった。特に、効率を重んじる若手職員からは、彼のペースは疎まれがちだった。ある日も、「譲二さん、もっと早く終わらせられないんですか?遅すぎますよ」と冷たい声が彼を責めた。この一幕を、総務課に用があった女医の美和が偶然目撃していた。

美和はこの病院の中でも際立った存在で、40歳を超えているがその見た目はずっと若々しく、20代後半と見間違えられることも珍しくない。彼女は冷淡に見られがちだが患者に対する優しさは誰にも負けず、仕事に対する姿勢も誰よりも厳しかった。しかしその日、後輩とのやり取りを見た美和は、ほんの一瞬笑みを浮かべて部屋を出て行った。譲二はその笑みに全く気付いていなかったが、「美和さんも冷淡な笑み浮かべていましたよ」と後輩から嘲笑された。悔しさを感じながらも、譲二は反論せずにその場を取り繕った。

譲二は、後輩たちからの扱いに心を痛めることはあっても、仕事と私生活には満足していた。家に帰ると、彼はすぐに夕食の準備を始めた。食事を共にする相手は、なんとその日総務課で彼のことを見ていた女医、美和だった。「ただいま、疲れたよー、譲二さん。ヨシヨシしてー」と彼女は、仕事中の冷淡な態度とは打って変わって、甘えん坊な声で譲二に抱きついてきた。職場での彼女とは異なり、家では愛情深く甘えん坊の一面を見せる。数年前から付き合いが始まり、現在は同居している二人。

普段は強気で自立した女性を演じている美和だが、家では譲二に全てを預ける。その日、譲二が若手職員から受けた仕打ちを知ると、「あの女の態度は何よ?私笑ってないし!そんな言い方は許せないわ!」と、憤慨していた。美和の言葉は、彼女がどれだけ譲二を大切に思っているかを物語っていた。

譲二は美和を強く抱きしめ、「仕方ないよ。俺は仕事が遅いからね。でも丁寧にしたいんだ」と優しく説明した。美和の心もやがて落ち着いてきた。譲二にとって、美和の存在は何よりの支え。彼女がそばにいることで、日々の困難も乗り越えていけると信じていた。

美和は自分だけが知る譲二の温もりと強さに触れ、徐々に心が和らいでいく。彼の広い胸に顔を埋めながら、いつも以上に感謝した。「ああ、落ち着くー」と微笑んだ美和の表情は、譲二にとっても等しく安らぎをもたらした。


二人の職場は恋愛が特に禁止されているわけではないものの、公にすることによって変わるかもしれない周囲の態度や人事評価を懸念して、関係を秘密にしていた。この秘密の関係と美和の特別な一面を自分だけが知っていることが、譲二にとってただの糧を超えたものだった。毎日の仕事の中で直面する小さな困難や挫折さえも、美和と共有する時間があるから乗り越えられる。

彼女の笑顔、彼女の声、彼女の優しさ、彼女のギャップが、譲二の心に深く刻まれた安らぎの源なのだ。美和と過ごす静かな夜は、彼の世界を照らす唯一無二の光だ。公にはできない彼らの関係性が、むしろ二人の絆をより強固なものにし、譲二の日々を前向きにさせる力となっていた。「美和がいれば、俺はそれで良いんだよ。」その言葉は、彼が直面するどんな困難も乗り越えるための、揺るぎない信念を表していた。

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