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「認知症の妻」

妻、洋子は50歳の頃から物忘れがはげしくなり始めた。
夫の進は当初、彼女の物忘れを単なる老化現象としか考えていなかった。
この誤解が原因で、二人の間にはしばしば小さな衝突が生じた。
しかし、洋子の状態が日に日に悪化し、最終的に病院で若年性認知症と診断された時、進は彼女の変化を真剣に受け止め始めた。

診断を受けてからの生活は、進にとっても洋子にとっても容易ではなかった。
進は時に、自分のイライラを抑えきれず、洋子に感情をぶつけてしまうことがあった。
そんな日々が5年続いたある日、洋子が突然行方不明になった。
以前から徘徊の兆候はあったが、今回はどれだけ探しても見つからなかった。
親戚、知人、友人、そして警察も捜索に協力したが、洋子の行方はつかめなかった。

洋子がいない生活の中で、進は彼女を探し続けた。
時間が許す限り、ビラ配りを行い、介護施設を訪ね歩いた。
彼は深い後悔の念に駆られていた。
「もっと優しくしてあげればよかった…」と自問自答し続けた。

「洋子、どこにいるんだよ。会いたい。」進はなんと5年もの間、洋子を探し続けていた。
そんなある日、進のもとに福岡の警察から連絡が入った。
洋子が見つかった可能性があるという。
情報によると、洋子は福岡のある施設にいるかもしれないという。
進はその瞬間、車に飛び乗り家を出た。
洋子に会える!その一心で、12時間かけ走り続けた。
そして翌朝、その施設の前に到着した。

進の心臓は激しく高鳴っていた。
施設の職員に案内され、部屋に通されると、洋子は何事もなかったかのように進に声をかけた。「あっ、進さん。」

職員によると、洋子は最近になって突然、家のことを話し始めたという。
進は洋子に向かって言った。
「どこに行ってたんだよ。もう俺も定年したんだぞ。」
妻はきょとんと目を丸くしたが、進に会えたからかニコニコしている。
再会した瞬間、進の心は複雑な感情で満たされた。
長い間の不安と心配、そして今、目の前にいる洋子への愛情。
時間を超え、再び結ばれた二人は、これからの日々をどう過ごしていくのか、新たな挑戦が待ち受けていた。
しかし、この瞬間、進にとって大切なのは、長い時間を経てようやく見つけ出した、愛する妻との再会だった。

再会の喜びと愛の力が、これから彼らが直面するであろうあらゆる挑戦を乗り越えることができると信じて、進は洋子の手を握りしめた。
この手は、かつてと変わらぬ温もりを感じさせ、二人の間の絆は時間を超えても変わらないことを彼に教えてくれた。

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