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運命の秘湯~危機脱出~

純愛

吹雪に翻弄された登山道。視界は白一色に染まり、凍てつく風が肌を刺し、手足は既に感覚を失っていた。一切の希望が遮断されかけていたその時、久美子の決意した声が届いた。「先輩!一緒に入りましょう。」天然の温泉を見つけた彼女の声は絶望の中での唯一の光だった。
俺の名前は戸田健介。定年退職後、趣味で始めたクライミングに情熱を注いでいた。元同僚の後輩たちと形成したチームで、山の頂を目指していた。しかし、目前に迫る頂上にもかかわらず、突如襲いかかる悪天候により、計画は狂い始めた。視界を奪われるほどの吹雪に、久美子以外の全員とはぐれてしまった。前が見えない。方向感覚も失われ、歩いても歩いても景色は変わらない。そんな中、久美子が「少し風を防げるところまで移動しましょう」と提案した。その言葉に従い、彼女に続いて歩いた。どれくらい時間が経ったのかわからないが、寒さで指先はもはや感覚を失いつつあった。定年後の運動不足もあり付いていくのがやっとだった。絶望的な気持ちに押しつぶされそうになったその時、ふと遠くに煙らしきものが目に留まった。「久美子!あれ!!」と声をかけ、彼女と共にその煙に向かって歩き始めた。なんとそこにあったのは天然の温泉だった。その側には、小さな小屋がぽつんと建っている。一応管理されているのだろう。秘湯と呼べるものだった。温泉の大きさはそれほどではなく、幅は1.5メートルほどしかなかった。久美子の声には震えがあったが、その眼差しには揺るぎない決意が宿っていた。「先輩、温泉に入りましょう。このままでは死んでしまいます…」彼女の声が途切れ、その瞳は訴えかけるように健介を見つめた。健介は一瞬の躊躇もなく頷き、凍てつく空気の中で服を脱ぎ始めた。恥ずかしさなど微塵も感じない。命の危機がそうさせた。温泉に飛び込んだ瞬間、猛烈な寒さから解放された。温かい湯が体を包み込む。普段であればぬるすぎるかもしれない温度だが、凍える体にはこれ以上のものはなかった。久美子と体を寄せ合い、震えが止まるのを待った。
 ようやく体が温まり、少し余裕が出てくると、久美子の姿がはっきりと目に映るようになった。彼女は以前からアマチュアの山岳部に所属していたこともあり、50歳を目前にしても体は引き締まっていた。彼女の体は適度な筋肉に覆われ、女性らしい曲線を保ちつつも、色白で美しさがあった。新入社員の時の教育係から、30年一緒に働いていたが、初めて見た久美子の身体は刺激的だった。その姿には自然と目が留まり、気がつけばじっと彼女を見つめていた。「きれいだ・・・」と俺は無意識のうちに呟いていた。その声に久美子は少し戸惑いながらも、「あまり、見ないでください」と胸を隠しながら静かに言った。「あ、あぁ。すまん…」と我に返り謝ったが、寄せ合った体が余計に意識をさせる。お互いが意識し始め、口数が少なくなっていった。今までの俺たちの関係では考えられなかった距離感だった。久美子は一瞬ためらいながらも、静かに言葉を紡いだ。「先輩、まだ…奥さんのことを引きずっているんですか?」その質問は空気を一変させた。健介は少し目を逸らし、深く息を吸い込んだ後で、ゆっくりと答えた。「いや、もう過去のことだよ。」その答えに、久美子は安堵の表情を見せずにはいられなかった。彼女はほんの少し身体を寄せ、二人の間の新たな一歩が静かに踏み出された。この共に乗り越えた試練が、お互いに新たな一面を見せたのだった。命の危険を共に乗り越えたことで、俺たちは互いの深い部分を理解し合うことができた。それは、新しい始まりの予感に満ちていた。

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