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団地妻~見られている~

昼下がり、向かいの団地に一際目を引く女性が住んでいる。おそらく三十代後半だろうと思われるが、彼女のことはまだほとんど何も知らない。向かいの団地の部屋から、たびたび彼女の姿が見える。彼女は俺が見ていることに気づいているはず、いや、確実に目が合っている。彼女は透けて見えるほどのネグリジェのような服装で過ごしている。俺と目を合わせ続ける彼女は、俺のことを誘っているのだろうか。

俺の名前は遠藤敦。昔ながらの建物の団地だが、リノベーションにより現代の快適さを備えた住まいに生まれ変わっている。子供の学校との兼ね合いで引っ越しはせず、家賃の安さから、去年から単身赴任でここに住むことになった。夜勤が多いため、昼間はほとんど家にいる。時折家にやってくる妻はたばこのにおいを嫌うので、俺はベランダで電子煙草を吸う。そんなある日、目の前の団地に、カーテンを開け放ったままの部屋があることに気が付いた。そこに、あの女性が住んでいる。平日の昼下がり、家にいる彼女はおそらく主婦なのだろう。けれど、その普通さを覆すように、彼女はほぼ裸に近い格好で生活している。窓越しに見える彼女の姿は、光に透けてさらに鮮明に映る。覗き見は道徳的に許されない行為だと頭では理解しているが、俺は目を離すことが出来ない。

そして、ある日のこと。買い物から帰る途中で彼女の部屋をふと見上げると、彼女が窓辺に立ち、俺の部屋をじっと見つめているのが見えた。彼女は俺がベランダにいないのか確認していたのだろうか。そんな疑問を抱きつつ、家に戻り一服しようとベランダに出ると、まだこちらを見ていた彼女と目が合った。いつものように透けた服を纏っている。心臓の鼓動が耳をつんざくほどに激しく、手の震えは制御不能になっていた。彼女の存在が、灰色の日常に色をつけるかのようで、その禁断の魅力が、僕の想像をはるかに超えていた。数分が静かに流れた後、彼女はゆっくりとカーテンを閉じて視界から消えた。その動作には何か決意のようなものを感じさせ、期待と不安が交錯し、彼女の姿が隠れた後も俺はその場に立ち尽くしていた。だがそれ以降、ほぼ毎日のように彼女は、俺が見ていることを意に介さずに、服を着替えたりする。俺は、その姿に心奪われ、家にいる間中気になり、彼女から目を離すことができなくなっていた。

ある夜勤明けの朝、ゴミ捨て場であの彼女がそこに立っていた。俺はどうして良いかわからず、ただ立ち尽くしていた。すると、彼女は爽やかな笑顔で「おはようございます」と挨拶してきた。どもりながら「お、おはようございます」と応じると、彼女は部屋に戻るためにこちらに向かって歩いてきた。彼女は一歩踏み出すよう俺の耳元に近づき、その瞳は探るように俺を見つめた。そして、彼女の声は震えるほど静かなささやきで、「いつ、来てくれるんですか?」と囁いてきた。その問いには、彼女自身の孤独とつながりを求めている感情が明らかに滲み出ていた。俺はその言葉が静寂を破るように響き、突如として胸の内で何かが燃え上がるのを感じた。足が震え、言葉を返そうとするものの、声は喉の奥に詰まったままで、彼女の問いかけに答えることができなかった。ただ、彼女の瞳から目を離すことが出来ず立ち尽くしていた。

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