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親友の妹

いつまでも若く感動純愛
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「斉藤、頼む。ちょっと話を聞いてくれないか?」

いつもの拓海からの電話。仕事帰り、疲れて自宅のソファでぐったりしていた俺の耳に届いたその声は、どこかいつもより切迫感があった。

「どうした?なんかあったのか?」

「いや、今回はちょっと別の話で」

「別の話?」

妙な沈黙が続いたあと、拓海はおもむろに切り出した。

「紘一……妹の真由佳と、しばらく一緒に暮らしてやってくれないか?」

――は?一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

「待て待て、どういうことだよ?お前の妹って、あの真由佳だよな?何で俺が?」

「いや、これがさ……真由佳、男性恐怖症になっちゃっててさ。引きこもりなんだ。大学を卒業してからずっと家から出られなくて、親も困り果ててる」

真由佳が、男性恐怖症?引きこもり?あの拓海の後ろをちょこちょことついてきていた子供の頃の姿しか思い浮かばない俺にとって、それは想像もつかない現実だった。

「いや、それで何で俺なんだよ。他に頼る人がいるだろう?」

「それが……真由佳が言ったんだよ。『こうくんだったら怖くない』って」

「俺、もう16年も会ってないぞ?それに、子供の頃の話だろ?今は俺も立派な男だぞ?」

「分かってるよ。でも、お前なら任せても大丈夫だから。頼むよ……紘一」

電話越しの拓海の声は、本気で困っている様子だった。俺がさらに返事を渋ると、最後の切り札を出してきた。

「それに、真由佳はな。趣味が家事ってくらい家事が得意だよ。全部やるって言ってるし、負担にはならないからさ」

その一言に、心が揺らいだ。俺は掃除も料理も苦手で、正直、部屋はいつも微妙に荒れている。

「……とりあえず考える」

そう答えたものの、数日間悩んだ末に、俺は結局了承してしまった。拓海の説得もさることながら、「家事」という甘い誘惑には抗えなかったのだ。

翌週、拓海が飛行機で真由佳を連れてやってきた。インターホンが鳴り、扉を開けると、そこに立っていたのは大人になった真由佳だった。

「こうくん……お久しぶりです」

緊張した面持ちで頭を下げる真由佳の姿に、俺は言葉を失った。あの頃の幼い面影を残しつつも、彼女は美しい女性へと成長していた。

「あ、ああ……久しぶり」

俺のぎこちない返事に、彼女は少しだけはにかんで笑う。その笑顔に、俺は心臓が跳ねるような感覚を覚えた。

「真由佳ちゃん……きれいになったね」

思わず口にしてしまったその言葉に、彼女は顔を真っ赤にしながらうつむいた。

拓海は一泊だけして帰ったが、残された俺と真由佳はどうにもぎこちない空気の中で新しい生活を始めた。

最初の数日間、真由佳はほとんど俺と目を合わせようとしなかった。会話も必要最低限にとどまり、彼女は常に緊張した様子だった。それでも、家事は完璧だった。

「こうくん、洗濯物、片付けておきました。あ、それと、今日はカレーを作りましたよ……」

「……え?ありがとう、カレー好きなんだよ」

俺の返事に、彼女はほんの少し笑顔を見せた。それだけで俺の疲れは吹き飛んでしまうのだから、我ながら単純だ。

彼女との会話は少しずつ増えていった。食卓を囲みながら、何気ない話題で言葉を交わすたび、俺たちは少しずつ距離を縮めていった。

そんなある日、俺は意を決して提案した。

「少し一緒にお出掛けしみる??」

「外……ですか?」

真由佳は驚いたように俺を見つめた。

「えっいや、無理しなくていい。ただ、散歩程度でもいいからさ。俺がついてるから、安心していいよ」

彼女はしばらく考え込んでから、小さく頷いた。

「……こうくんが一緒なら、大丈夫かも…」

その言葉に、俺の胸がじんと熱くなった。彼女が俺を信じてくれていることが嬉しかった。

初めての外出は、近所の公園だった。少し緊張している様子の真由佳を気遣いながら、ゆっくりと歩いた。

「どう?大丈夫?」

「……はい。でも、少し緊張しました」

「そうか、少しずつ慣れていこう」

俺は彼女に微笑みかけた。真由佳も、少し照れくさそうに微笑み返してくれた。その笑顔が、とても可愛らしくて、俺の胸はドキドキした。

その後、真由佳は少しずつ外出にも慣れていった。スーパーでの買い物や散歩、喫茶店でのコーヒータイムなど、小さな一歩を積み重ねていく彼女の姿は、どこか誇らしく見えた。

「こうくん、本当にありがとう。こうして過ごせるようになったのは、こうくんのおかげです」

「いや、俺は大したことしてないよ。真由佳ちゃんが頑張ったんだ」

その何気ないやり取りの中で、俺は次第に自分の心が彼女に傾いているのを感じていた。そして、それが「ただの友人の妹」という枠を超えたものであることにも気づき始めていた。

真由佳との同居生活が半年を迎えた頃、彼女の男性恐怖症をほとんど克服していたと思う。最初は男性とすれ違うだけで青ざめていた彼女が、今では近所のスーパーへ一人で買い物に行き、外の世界に自然と溶け込めるようになっている。

「こうくん、見て!むちゃくちゃ安かったよ」

笑顔で話す真由佳は、もう以前の引きこもりだった彼女ではなかった。その成長を見守るうちに、俺の心にはある感情が強く根付いていた。それは彼女への「特別な想い」だ。だが、彼女に気づかれるのが怖くて、その想いを口にすることはできなかった。

そんなある夜だった。俺がリビングでパソコンをいじっていると、ドアがノックされる音が聞こえた。

「こうくん……少しお話できますか?」

時計を見ると、夜の10時を回っていた。いつもならお互いそれぞれの部屋に戻っている時間だ。

「ん?どうしたの?」

ドアを開けると、真由佳が緊張した面持ちで立っていた。何かを言おうとしているようだが、言葉が詰まっている。

「……あの、こうくん……」

彼女が顔を上げた時、その目には涙が浮かんでいた。

「私を抱いてください」

その言葉に、俺は一瞬、時間が止まったかのような錯覚に陥った。

「は?え?」

あたふたしている俺に、

「こうくん、お願い…」

震える声で、真由佳は自分の気持ちを必死に伝えようとしていた。その姿を見た瞬間、俺は彼女をそっと抱きしめた。

彼女は小さく頷き、俺の胸に顔を埋めた。

その夜、俺たちは同じ布団の中で、お互いの存在を確かめ合った。焦らず、彼女の不安を気遣いながら、少しずつ距離を縮めていった。

「こうくん……優しくしてくれてありがとう……」

そう呟く彼女の声が、何よりも愛おしく感じられた。

翌朝、目覚めた俺は、隣で穏やかな寝顔を見せる真由佳の姿に、決意を固めた。

「真由ちゃん、結婚しよう」

彼女が目を覚まして最初に俺が言った言葉に、真由佳は目を丸くして俺を見つめた。

「え……こうくん、本当に?」「ああ、本気だよ。真由ちゃんを守りたいんだ。俺はもう君なしじゃいられない。だから……俺と家族になってほしい」

彼女の目にはまた涙が浮かんでいたが、今度は嬉しさで溢れているものだった。

「はい……よろしくお願いします」数週間後、俺たちは拓海の家を訪れ、結婚の報告をした。最初は驚いた様子だった拓海だが、俺たちの真剣な表情を見ると、やがて微笑んだ。

「紘一、真由佳を頼むぜ。俺の妹を絶対に幸せにしてくれよ」

「ああ、もちろん。命にかけて守るよ」

その後、家族の祝福を受けて俺たちは正式に夫婦となった。結婚式はこぢんまりしたものだったが、真由佳の純白のウェディングドレス姿は、この上なく美しかった。

結婚後、真由佳は手芸教室という仕事を始めた。昔から得意だった裁縫を活かして、笑顔で教室を切り盛りしている姿を見ると、俺も嬉しくなる。

休日には二人で近くの公園を散歩したり、映画を見たりと、小さな幸せを一つずつ積み重ねていった。

「こうくん、本当にありがとう。こうくんのおかげで私はここまで来れました」

「ありがとうなんていらないよ。俺だって、真由ちゃんがいてくれるから幸せなんだ」

そんな何気ない会話が、今では俺たちの宝物だ。

俺がずっと探していた「欲しかったもの」。それは、こんなにも穏やかで温かい毎日だったのだろう。

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