私は61歳の雄一郎と申します。結婚して25年になる妻、佐和子と二人で暮らしています。娘と息子がいますが、二人とももう家を出て、今はそれぞれの家庭を築いています。孫もいますから、時々顔を見せてくれるのだけが何よりの楽しみです。
佐和子とは、結婚した当初はそれなりに仲が良かったと思います。子供が生まれてからは、親として二人三脚で頑張ってきたつもりです。あの頃はとにかく忙しくて、仕事と家庭の両立で精一杯だったのを覚えています。佐和子も、子供たちの世話や家事に追われながらも、しっかりと家を守ってくれました。
でも、子供たちが巣立ってからは、二人きりの生活になってしまいました。今でも夫婦で夕飯を一緒に食べて、テレビを見ながら会話を交わすこともありますが、昔ほどの活気はありません。どうしても話題が見つからず、つい黙ってしまうことが多くなりました。娘や息子がたまに孫を連れて帰省する時だけ、家の中に笑い声が戻ってくる。そんな時は、あぁ、家族っていいなとしみじみ思います。
そんなある日、友人夫婦が遊びに来ました。昔からの付き合いで、私と同い年の友人夫婦です。お互い子供が独立しているので、こうやってたまに集まってお酒を飲むのが楽しみです。話すことといえば、昔の思い出や最近の健康のこと、孫の話題が多いですが、まあそれなりに盛り上がります。
その日も、ついついお酒が進んでしまい、気がつくと私と友人は酔い潰れて床に横になっていました。妻同士もお酒が入って気分が良かったのでしょう。私が横になってうとうとしていると、二人の会話が耳に入ってきました。
「ねぇ、佐和子さん、昔のあの人はどうなったの?」
「あぁ、あの人のことね…。もう連絡も取っていないわ…。」
その言葉を聞いた瞬間、酔いが一気に冷めました。佐和子が、浮気?そんなこと、今まで一度も聞いたことがありませんでした。私は酔ったふりをしながら、必死で耳を澄ましました。
「うん…夫が仕事で忙しくて、全然家にいなかったから。子供たちも学校に行くようになって、寂しくて…あの時は、つい魔が差しちゃったのよ。でも、もうとっくに終わったことだし、あの時からはもう全然会ってないわ。」
私は心の中で、どこかホッとしたような、でもやっぱり信じられない気持ちが渦巻いていました。確かにあの頃、私は仕事に没頭していて、家のことはほとんど任せっきりだった。子供たちの学校行事にもほとんど顔を出せなかったし、佐和子の気持ちに気づくこともできなかった。
でも、それでも、浮気だなんて。そんなこと、普通に考えれば許せるはずがありません。それに、聞きたくなかった。知りたくなかった。だって、25年も一緒に暮らしてきた妻ですよ。そんなこと、今さら聞いてもどうしようもないじゃないですか。
その夜は、友人夫婦が帰った後も何も言わずに眠りました。佐和子も、私が聞いていたことに気づかなかったのでしょう。翌日も普段と変わらず、朝食を作ってくれて、私も定年してから始めたパートにいつも通りに出かけました。
でも、どうしても頭から離れないんです。佐和子が、他の男と…。考えれば考えるほど、胸の奥がギュッと締め付けられるような気持ちになります。嫉妬心って、こんなにも苦しいものだったんですね。私はずっと、佐和子を女性として意識していなかったのに、そんな話を聞いた途端、急に胸が苦しくなるなんて。
結局、私はその夜、思い切って佐和子に打ち明けることにしました。食事が終わって、二人でテレビを見ている時、思い切って口を開きました。
「なぁ、佐和子。昨日の話、聞いてしまったんだ。」
「えっ…」
佐和子は驚いたように私を見ました。私は続けました。
「お前が、昔浮気してたってこと、聞いちゃったんだよ。許せないと思った。でもな、俺、もっと驚いたのは、こんな話を聞いて、今さらながらこんなに嫉妬してる自分に驚いたんだ。」
佐和子は一瞬目を見開きましたが、すぐに視線を落とし、小さな声で謝り始めました。
「あの時は、本当に寂しかったの。あなたが全然家にいなくて、子供たちも学校に行ってしまうと、一人ぼっちで…気づいたら、その人に頼ってしまっていたの。あの人とは、もうずっと会っていないし、今も連絡なんて取っていないわ。」
その言葉を聞いて、私はさらに嫉妬心が募りました。寂しかったって?俺だって、必死に家族のために働いていたのに。お前のことを考える余裕なんてなかったけど、それでも、家に帰ってきてホッとするのはお前がいたからだろう。なのに、そんなことをするなんて…。
あぁ、そうか…。俺や佐和子のことが今でも好きなんだな。
「今、なんだか俺、お前を抱きたくてたまらない。浮気の話を聞いてから、ずっとお前のことばかり考えてる。お前を、もう一度抱きたい。」
私は、正直な気持ちを伝えました。すると、佐和子は泣きながら謝りました。
「ごめんなさい、あなた。こんな私を、今でも必要としてくれるなんて…。本当にごめんなさい。」
そう言いながら、佐和子は私の胸に顔をうずめてきました。その瞬間、私は彼女を強く抱きしめ、そしてその夜、二十年ぶりくらいに彼女を抱きました。正直なところ、昔のようにはいきませんでした。お互い年を取ったし、体力だって落ちています。
でも、恥じらう佐和子の顔を見て、私の中の何かが燃え上がるような気持ちになりました。嫉妬心と、昔の思い出が入り混じりながらも、ただただ彼女を求めてしまいました。
それからというもの、私たちは定期的に夜の営みを持つようになりました。もちろん、若い頃のようにはいきませんが、二人のペースで、お互いを確かめ合うような時間を過ごしています。こんなふうにまた夫婦としての絆を取り戻せたのは、あの衝撃的な話を聞いたおかげなのかもしれません。今でも、彼女の浮気の話を思い出すと、心がチクリと痛みますが、それでも許して良かったと思っています。
お互い年を取って、これからどれくらい一緒にいられるかわかりませんが、残りの時間を大切に、二人で生きていきたいと思っています。今さら、こんなことを言うのも恥ずかしいですが、やっぱり佐和子は私にとって唯一の女性なんだと改めて実感しています。
いかがでしたでしょうか。雄一郎さんのお話でした。