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浮気現場

いつまでも若く純愛裏切り

私はその日、予定よりも早く仕事が終わったので、祐一の家に向かうことにしました。久しぶりに早く帰れそうだったので、祐一のために夕飯でも作ろうと、ウキウキしながら彼の家の玄関を開けたんです。そこには、女ものの靴が置いてありました。そして、そこに慌てて裸で出てくる祐一がいました。

「おお、どうしたんだ?シャワーを浴びてようと思って」

祐一はそう言って弁解しましたが、その言葉はまるで耳に入ってきませんでした。頭の中でその言葉はただのノイズにしか聞こえなくて、心が何かを感じ取る前に直感でおかしいと気づきました。裸の彼が必死に言い訳をする姿を見て、かつてなら「早く入りなさいよ」と笑って済ませられたかもしれないのに、その瞬間、私の中で何かが凍りついた気がしました。

玄関を入った途端、部屋全体に漂う湿った空気と、少しだけ乱れたベッドシーツ。普段かぎなれない匂いと、部屋には妙な静けさがありました。それが、私にすべてを語りかけていたんです。

祐一は背後で何か言いかけていましたが、私はそれを無視して、無言のまま部屋の奥に進みました。そしてクローゼットを開けると、その瞬間、目に飛び込んできたのは――裸の美紀でした。彼女は私の職場の同僚で、いつも笑顔で接してくれていた人でした。けれど、その日はシーツに包まって震えていて、あの笑顔はそこにはありませんでした。

「違うの! 本当に違うの! 祐一とはそんなつもりじゃ…」

美紀は慌てて言い訳を始めましたが、私はその言葉に耳を傾けることもせず、ただ静かに彼女を見つめていました。心の中では怒りや悲しみが渦巻いているはずなのに、不思議と冷静で、ただ「もういい」と思ってしまったんです。

私は、自然と笑ってしまいました。心が痛くてどうしようもないのに、その痛みが笑顔となって顔に現れたんでしょうか。それとも、これ以上何も感じたくないという自分を守るための防衛本能だったのかもしれません。

「何が違うの?」

その言葉は驚くほど冷たく、乾いていました。自分の声とは思えないほど冷静で、もう感情を捨ててしまったかのようでした。美紀は「ごめんなさい」と泣きそうになりながら謝っていましたが、その涙も私にはもうどうでもいいことに思えました。彼女がどう感じているかなんて、今の私には関係ないことでした。

その時、ふと頭に浮かんだのは、鈴木君のことでした。鈴木君は入社時に私が教育担当をしていた後輩で、数日前に彼から聞かされた話が今、私の脳裏に蘇りました。彼は給湯室で美紀と祐一が抱き合いながら話しているのを目撃していたんです。しかも、美紀が「私、妊娠したの」なんて言っていたと聞かされたとき、私は愕然としました。鈴木君はその事実を私に知らせるべきかどうか迷っていたそうですが、結局は私を傷つけたくないという気持ちから、勇気を出して打ち明けてくれました。

「茜さんが苦しんでいるのを見たくなかったんです。だから、黙っていられませんでした」と鈴木君は真剣な表情で言っていました。

その時は、どうしてそんなに鈴木君が私のことを気にかけてくれるのか分かりませんでした。ただ、彼の真っ直ぐな言葉が胸に刺さっていたことだけは覚えています。

そして翌日、私は決意して祐一に婚約破棄と慰謝料を要求することを告げました。祐一は最初、何が起きているのか理解できていないようで、呆然とした表情を浮かべていましたが、私が妊娠させたことを口にすると一気に焦りだしました。

「待ってくれ! 本当に美紀とは終わってるんだ! 茜、お願いだから信じてくれ!」

祐一は泣きながら懇願してきました。以前の私なら、その涙に心を動かされていたかもしれません。でも、今の私はもう、彼に対して何も感じることができませんでした。彼がどれだけ涙を流そうと、私の中で彼に対する感情は完全に消え去ってしまったのです。

「妊娠させたのに?ハサミで切り落とされたいの?」

自分でも驚くほど冷たく、無感情にそう言いました。脅しというよりは、ただ事実を告げているだけのような気持ちでした。祐一はその言葉に恐れをなして、力なくその場に崩れ落ちました。

私はその場を後にし、正式に慰謝料を請求することを告げました。心の中は不思議と静かで、何も感じていないような気がしました。むしろ、何か大きなことが終わってしまった、そんな感覚でした。

マンションを出たとき、私の目には自然と涙が溢れていました。でも、その涙は悲しみの涙でも、怒りの涙でもありませんでした。まるで長い夢からようやく覚めたような、そんな不思議な感覚だったんです。

マンションから出ると、鈴木君がそこには立っていました。逆上された二人に何かされないかと心配になり来てくれたようでした。鈴木君がそっと私の傍に寄り添って一緒に歩いてくれました。

「茜さん、パーッと飲みに行きましょう」と彼は優しく声をかけてくれました。その声には明るさがありましたが、彼の瞳には少しだけ不安が混じっているようにも見えました。私がどう答えるのか、きっと彼も怖かったのでしょう。

でも、私はその時「ごめん、今日は一人にさせてくれるかな。」と答えるしかありませんでした。鈴木君が少しだけ悲しそうな顔をしていたのは分かっていましたが、今の私には彼の優しさを受け入れる余裕がなかったのです。自分の中で、まだ気持ちの整理がついていなかったのです。

翌日、会社に出社すると、鈴木君と祐一が大声で言い争っているのが見えました。鈴木君が祐一の胸元を掴み、激しく怒鳴っていました。

「お前のせいで茜さんがどれだけ傷ついたか、分かってんのか!」

鈴木君は顔を真っ赤にして祐一に詰め寄っていました。祐一は反論することもできず、ただうつむいていました。周りの同僚たちが慌てて止めようとしていましたが、鈴木君の怒りはそう簡単には治まりそうにありませんでした。

私がその場に現れると、現場がシンとなりました。私はその場に近づいて、静かに「鈴木君、もういいよ」と声をかけました。すると、鈴木君はハッとしたように私を見つめ、ゆっくりと手を離しました。祐一は何も言わず、ただうなだれていました。

その後、私は会社の部長にすべてを報告し、祐一と美紀は会社を去ることになりました。数日後、祐一の両親に婚約破棄を伝えると、彼らは何度も謝罪し、慰謝料を申し出てきましたので、私はただ静かにそれを受け入れるだけでした。

その後、祐一と美紀が結婚して子供を授かったという噂を聞きましたが、それを知っても何も感じませんでした。ただ、自分が取り残されたような気持ちが少しだけ胸の奥に残っていました。

でも、それでも鈴木君はいつも私のそばにいてくれました。何も言わず、ただ私の隣で静かに支えてくれていました。彼のその優しさに、私は少しずつ癒されていきました。
「茜さん、今日こそ飲みに行きましょう!」
何度断っても誘ってくる鈴木君のその明るい声が、今は心地よく響いています。彼の存在が、私の未来に少しだけ光を灯してくれている気がしています。けれど、まだ完全に過去を乗り越えられたわけではないのも確かです。心の奥に残る小さな棘。それは、祐一との過去が残したものでしょう。

それでも、私は前に進んでいくしかないのです。鈴木君の隣にいる今の自分が、そう囁いているような気がしました。

「鈴木君、いつもありがとう。んじゃ今日は飲みにいこっか。お礼に奢るよ。」

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