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僕の叔母

いつまでも若く禁断背徳

子供の頃、よく一緒に遊んでくれた4つ年上の美穂さんのことを思い出す。田舎の隣家に住んでいた美穂さんは、いつも明るく、優しかった。和明が幼かった頃、彼女は大切な遊び相手であり、憧れの存在だった。夏の午後、和明は草むらに座り込んでいた。虫取りに夢中になりすぎて、疲れ果ててしまったのだ。ふと顔を上げると、美穂さんが小さな虫かごを差し出してきた。そこには、青く光る美しい蝶が入っている。

「和くん、見て!捕まえたよ」
「わあ、すごい…」
美穂さんの微笑みが、夏の日差しにきらめいて見えた。その笑顔に、和明は思わず心を奪われた。そしてふいに、幼いながらも真剣な顔で美穂さんに言った。

「大きくなったら、僕、美穂ちゃんと結婚する!」
「えっ?」美穂ちゃんは驚いたように目を見開き、次の瞬間、ふふっと笑って和明の頭を撫でた。「じゃあ、和くんが大きくなったらね」
和明はその言葉に嬉しくなって、草むらで勢いよく跳びはねた。その時、まだ幼かった彼には、約束の重さなどわからなかった。ただ、美穂さんの笑顔が見られたことが何より嬉しかったのだ。

年月が流れ、両親の都合で関東近郊に引っ越しし、美穂さんとはそれっきりになっていた。やがて和明は大人になり、社会人としての生活を始めた。そして、あの憧れのお姉さんで幼馴染でもある美穂さんは、まさか自分の叔父と結婚するとは思ってもみなかった。それからさらに10年以上が経ち、美穂さんへの幼い頃の淡い想いや記憶も、時とともに少しずつ薄れていった…かに思えた。しかし、再び彼女と一緒に暮らし始めたことで、眠っていた想いが再燃するとは、この時まだ気づいていなかった。

きっかけは、祖父母が急に介護が必要な状態になったことだった。美穂さんは、和明の叔父、父親の弟と結婚し、幸せに暮らしていた。ただ、昨年叔父が事故で亡くなるという出来事がおこった。さらに叔父の死のショックで、同居していた祖父母が認知症を発症してしまったのだ。美穂さんは夫の死を悲しむ間もなく未亡人として一人で、義両親である祖父母の面倒を見ていたが、次第に体力も限界に近づき、日に日に疲労の色が濃くなっていった。

そしてある日、両親からその話を聞かされた和明は、祖父母の家を訪れた。そこで目にしたのは、疲れ切った表情の美穂さんだった。彼女の顔には、かすかに遠慮がちな笑顔が浮かんでいたが、どこか痛々しく見えた。自然と口をついて出た。
「俺もここに住みます。今の俺の職場はここからでも通えるし、手伝えますから」
美穂さんは「え?本当にいいの?助かるわ、本当に…」と言ったものの、その言葉の裏に微かな戸惑いも感じられた。彼女にとって和明は、田舎のご近所さんであり幼馴染、そして亡き夫の甥にあたる存在。血のつながりはないものの、どこか遠慮が残っているのかもしれなかった。

本来なら長男夫婦である和明の両親が一緒に住むべきだが、仕事の都合で関東近郊で家を構えていたこともあり、就職後こちらに戻って一人暮らしをしていた和明が祖父母の家に転がり込むことになった。そして、和明と美穂さん、そして祖父母の奇妙な共同生活が始まった。

介護の日々は予想以上に厳しく、慣れない世話に戸惑い、心身ともに疲れ果てることもしばしばだった。しかし、そばに美穂さんがいることで、どこか救われる思いを抱いていた。幼い頃からの淡い憧れが、彼女への強い想いへと形を変えていくのを、和明は密かに感じていた。

ある夜、祖父母が眠りについた後、俺たちは無言でキッチンに立ち、食器を片付けていた。静まり返った夜の中、ふと美穂さんが「和くん、いつもありがとうね」とぽつりと呟くように言った。和明はその声に驚き、思わず彼女の顔を見つめた。美穂さんは照れくさそうに微笑んでいる。だが、その笑顔がどこか寂しげに見えて、和明は思わず言葉を返していた。

「美穂さんのためなら、俺は何でもしますよ」
その一言が、和明たちの間に張り詰めた空気を生み出した。美穂さんは一瞬だけ目を伏せ、そして小さな声で「ありがとう…」と囁いた。その言葉には、彼女の中で押し殺していた感情が滲んでいるようだった。
和明は、胸の奥に抑えきれない想いが膨れ上がっていくのを感じていた。しかし、彼女は叔父の妻だったという事実が、理性の壁となり、和明を押しとどめていた。

日々が過ぎる中で、美穂さんもまた、和明に対する自分の気持ちが変わっていくのを感じ始めていた。彼が自分のために精一杯尽くしてくれる姿を目にするたび、胸の奥で何かがかすかに震える。未亡人として、かつての夫に対する想いを胸に抱きながらも、和明が近くにいることが心の支えになっているのは否定できなかった。しかし、それと同時に、彼に惹かれている自分を感じるたび、理性がその気持ちを押さえつけていた。

ある晩、美穂さんがぼんやりと「こんな生活、いつまで続くのかしら…」と呟いた時、和明はすかさず「俺がずっと支えます」と即答した。
美穂さんは驚いたように目を見開いたが、その瞳の奥には、ほんの少しの温もりと安堵が感じられた。和明の言葉が、彼女の心に静かに染み渡っていく。
「ありがとう…」と美穂さんはかすかに震える声で答えた。その声には、彼女の中で消せない葛藤と、和明への想いが滲んでいた。

月明かりが静かに差し込むキッチンで、和明は意を決して口を開いた。
「美穂さん、俺にとってあなたは…」
何かを言いかけたその瞬間、言葉が喉で詰まった。自分が口にしようとした言葉が、どれほど危険で、二人の関係を揺るがすものであるかを、和明はよくわかっていた。けれど、抑えきれない気持ちがそこにある。叔父の妻だったという事実が、常に和明の理性をかすかに躊躇わせる。
美穂さんもまた、その想いを感じ取ったかのように静かに和明を見つめ返していた。そして、彼女はゆっくりと和明の手を握った。その手は温かく、微かに震えていた。
「私も…和くんがいてくれて…ありがとうね」
その言葉に背中を押されるようにして、和明は昔の約束を思い出した。まだ幼かったあの夏の日、美穂さんに伝えた子供っぽい約束を。
「覚えてますか、俺が子供の頃に言ったこと…? 『大きくなったら結婚する』って…」
美穂さんは一瞬驚いたように目を見開き、そして小さく笑った。

「あの時のこと、覚えていたのね…」
和明は真剣な表情で頷いた。「もちろんです。ずっと忘れたことはありません。…だから、俺は美穂さんを、幸せにしたい」
その言葉に美穂さんは涙を浮かべ、静かに微笑んだ。その微笑みは、幼い頃に見た夏の日の笑顔と同じだったが、今の和明には、その意味がよくわかっていた。
それからも二人は、祖父母の介護に励む日々を続けた。背徳感を抱えながらも、二人は互いにとってかけがえのない支えとなり、心の中で深く結びついていった。

和明は彼女の手を強く握りしめ、誓うように頷いた。そして、美穂さんは穏やかな微笑みを浮かべて和明を見つめた。その微笑みは、幼い頃の夏の日差しの中で見た輝く笑顔と重なっていた。和明の隣に、彼女がいてくれる限り、和明はこの人を守り続けていく。和明もまた、彼女に微笑みを返し、二人で歩む未来を胸に刻んでいた。

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