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私たち夫婦が結婚したのは、30代後半になってからでした。マッチングアプリを利用して出会い、趣味や価値観の一致をきっかけに、自然な流れでゴールインしました。それまでの私は結婚に対して積極的ではありませんでしたし、妻の美香も似たような考えを持っていたようです。ところが、周囲からの「そろそろ結婚を考えたら?」という見えない圧力に言葉に背中を押されるようにアプリに登録し、そこで彼女と出会いました。
最初は「条件の合う人」という程度の認識でしたが、初めて会った日に一緒に話した趣味、ミュージカルや舞台観劇が、二人の距離を一気に縮めました。2回目のデートで一緒に見に行ったミュージカル。観劇後に感想を熱く語り合い、食事をしながらストーリーの解釈を深める彼女に、私は心を動かされました。その夜、彼女といる時間が心地よいと初めて実感したのです。
結婚後も私たちは仲良く過ごしていました。それから7年が経ち、私たちはすでに40代半ばを迎えようとしています。大きな喧嘩もなく、穏やかな結婚生活。観劇は今でも私たちの共通の楽しみですが、最近では妻の親友である真由さんが一緒に来ることも増えていました。妻曰く、彼女は「学生時代からの大親友」で、家にも頻繁に遊びに来ていました。
妻の親友である真由さんは控えめな性格で清楚な印象の女性でした。穏やかな笑顔、柔らかな声、そして礼儀正しい態度。まるで上品に育てられたお嬢様のような彼女に、私は最初から好感を持っていました。ただ、それはあくまで「妻の友人」という立場でのもの。それ以上の感情を抱くことはなく、彼女を特別に意識することもありませんでした。
私と妻は性格が正反対です。私は内向的で優柔不断なタイプ。一方、妻はしっかり者で、はっきりと意見を言う強さを持っています。そのバランスが夫婦としての安定を保っていると思っていました。私は妻に引っ張られることで安心感を覚え、彼女の背中を追うことに甘んじていました。
ただ、夜の営みについては少し違和感を抱くことがありました。妻はあまり積極的ではなく、その話題になることもほとんどありませんでした。結婚当初はそれを受け入れていましたが、年数を重ねるうちに、自分たちの関係が少しずつ形だけのものになっているような気がしていました。でも、そのことを妻に打ち明ける勇気もなく、見て見ぬふりをしていました。
そんな日常が、ある日の出来事をきっかけに一変しました。私たちはミュージカル公演のチケットを取り、何カ月も楽しみにしていました。しかし、妻が急な仕事で行けなくなったのです。私は「残念だけど、今回は諦めようか」と言いましたが、妻は首を振りながら提案しました。
「それなら、真由と行ってきてくれない?やっぱりチケットもったいないし。せっかくだし、彼女もきっと喜ぶと思うわ。」
こうして、私は彼女と二人で観劇に行くことになりました。それまで一度も二人きりで会ったことがなかった相手。妻がいる時は自然と話ができても、二人きりとなると、どこか気まずさを感じました。駅で待ち合わせをした時、私は少し緊張していました。しかし、真由さんが笑顔で「今日はよろしくお願いします」と声をかけてくれ、その柔らかな声に少し肩の力が抜けました。
劇場に向かう途中、ぎこちないながらも会話を交わしました。普段なら妻が話の中心にいるので、会話をリードするのはいつも彼女。私と彼女の二人では、どこか空回りするような感覚がありました。それでも、公演が始まると、そんなぎこちなさはどこかに消え去りました。舞台の世界に引き込まれ、隣で彼女が涙ぐむ姿を見た時、不思議な感情が芽生えました。
公演後、私たちは軽く食事をしました。彼女と舞台の感想を言い合いながら過ごしたその時間は、驚くほど心地よいものでした。そして、ふと彼女の笑顔を見た瞬間、胸が軽く高鳴る感覚を覚えました。それはこれまで感じたことのない感情で、自分でも戸惑うものでした。
家に帰ると、妻がリビングで私を待っていました。
「どうだった?楽しかった?」
「うん、すごくいい舞台だったよ。」
私は何でもないふりをして答えましたが、その夜はなかなか寝付けませんでした。彼女の笑顔や仕草が頭の中で何度も蘇り、その度に胸がざわつくのです。
あの日以来、私は明らかに彼女を意識するようになっていました。それまで「妻の親友」としてしか見ていなかった彼女が、一人の魅力的な女性として心に焼き付いてしまったのです。彼女の柔らかな笑顔、控えめで穏やかな話し方、そして時折見せる寂しそうな表情、その一つ一つが私の心を揺さぶり、頭から離れなくなりました。
しかし、そんな気持ちを抱きながらも、私は妻に対して後ろめたさを感じていました。それでも妻との関係はこれまで通り良好で、彼女が私を信頼してくれているのも分かっていました。それなのに、親友に心を奪われつつある自分が許せませんでした。これ以上深く彼女に踏み込んではいけない、そう自分に言い聞かせましたが、彼女と顔を合わせるたびに心がざわつき、抑えようとするほど気持ちは膨らんでいくばかりでした。
その後も、彼女はこれまでと同じように私たちの家に遊びに来て、妻と一緒に笑い合う日々が続きました。彼女が訪れるたびに、私はどこか気まずさを感じながらも、無意識のうちに彼女の姿を追いかけてしまう自分に気付いていました。妻が席を外した時など、彼女と二人きりで短い会話を交わすだけで胸が高鳴り、それがいけないことだと分かっていながらも、その瞬間が幸せに感じられました。
彼女との距離が少しずつ縮まる中で、ある日の出来事が私たちの関係をさらに変えてしまったのです。
妻が夜勤で不在だったある日、彼女が夕飯を持って家に来てくれたのです。もともと彼女は料理が得意で、よく食事を作ってくれていたのですが、その日は「私も一緒に食べて良いですか?」と言われ、二人でテーブルを囲むことになりました。
夕食の間、普段は妻がいる場であまり話さないような、彼女自身の趣味や日常の話題が自然と出てきました。彼女が楽しそうに笑いながら話す姿に、私はどこか安心感を覚え、気付けば彼女との会話に夢中になっていました。
「今日は本当にありがとう。こうやってゆっくり話すの、なんだか新鮮だね。」
ふと口にしたその言葉に、彼女は少しだけ驚いたような顔をして、それから微笑みました。
「私も……こんなにたくさん話せて、嬉しいです。」
夕食を終えた後、彼女が「片付けますね」と言ってキッチンに立った時、私はなぜかその後ろ姿に見入ってしまいました。その背中は、これまで見てきたどんな彼女とも違って見えたのです。気持ちを抑えようと頭では分かっていても、その時の私にはそれが難しく感じられました。
片付けが終わり、リビングに戻ると、彼女が窓際に立って外を眺めていました。カーテンの隙間から差し込む月明かりが彼女の横顔を照らし、その姿があまりに美しくて、私は思わず彼女に近づいていました。
「……本当にありがとう。」
そう言いながら、私は気付けば彼女の肩に手を置いていました。彼女は一瞬驚いたようでしたが、私の方を見上げ、困惑した表情を浮かべました。それでも、私はその視線に吸い込まれるようにして、思わず彼女に顔を近づけました。
「……だめ……」
彼女は小さな声でそう言いながらも、その場から動かず、ただ目を閉じました。
次の瞬間、私たちはキスをしていました。それは長いものではなく、ただ触れるだけのもの。それでも、胸が痛いほど高鳴るのを感じました。
「ごめん……本当にごめん。」
私はすぐに一歩後ろへ下がり、彼女から距離を取ろうとしました。しかし、彼女は何も言わず、目を伏せたまま立ち尽くしていました。しばらくの沈黙の後、彼女は小さくうなずき、静かにこう言いました。
「私の方こそ……ごめんなさい。」
その後、彼女は早々に帰ると言って家を後にしました。
それ以降、以前のように笑顔で話しかけてくれることもなく、どこかよそよそしい態度を取るようになりました。妻と一緒にいる時も、彼女は必要最低限の会話しかせず、明らかに私との距離を取ろうとしているように見えました。
怒ってるのかと私は彼女に直接聞こうと思いましたが、妻の前ではどうしてもその話を切り出すことができませんでした。悶々とした日々を過ごしながら、彼女の態度の変化に心を痛めていました。
ある日、妻がいると思って作り置きのおかずを持って彼女が家に訪ねてきました。おかずだけ渡してすぐに帰ろうとする彼女を引き留め、私は意を決して彼女に尋ねました。
「やっぱり怒ってるの?」
彼女は一瞬驚いたように目を見開きましたが、すぐに視線を逸らし、小さな声で答えました。
「……そうじゃないの。ただ……ごめんなさい。」
それ以上は何も言わず、彼女はうつむいたままでした。その言葉が私に何を意味するのか分からず、ますます混乱するばかりでした。
しばらくして、妻が外出中の日に彼女がまた家を訪れました。彼女は妻がいないことを知らなかったようで、私の顔を見ると少し戸惑った表情を浮かべました。
「ちょっと出かけたよ。上がって待ってて。」
彼女は一瞬迷ったようでしたが、「じゃあ」と言って家に上がりました。
彼女と二人きりになると、私はどうしても気持ちを抑えきれませんでした。このチャンスに、今の自分の気持ちを伝えたい。でも、それを口にしてしまえばすべてが壊れるかもしれない。そんな葛藤の中、私は意を決して彼女に問いかけました。
「冷たくなった理由、教えてほしい。」
彼女は一瞬困ったような表情を浮かべ、しばらく黙っていました。そして、やっとのことで小さな声で答えました。
「私、気付いたの……。でも、美香ちゃんを裏切るようなことはできない…」
その言葉に、私は彼女の心の中にも私と同じような葛藤があることを感じました。しかし、私は抑えることが出来ず彼女を抱きしめ、そしてキスをしました。私はもう止めることは出来ませんでした。真由も多少は抵抗しましたがほとんど力はなく、私はそのまま彼女を抱いてしまいました。
その時、玄関のドアが開く音がしました。
「ただいま~。」
妻が帰ってきたのです。ただ、妻がすぐに「あっ忘れた。」と言いすぐに車まで戻ってくれたので事なきを得ました。
その間に服を着ることができ何とか難を逃れることができたと思っていました。
が、その後リビングに入ってきた妻は、私たちの様子を見て、怪訝そうな顔をしていました。真由は慌てて立ち上がり、「おかえり」と笑顔を作りましたが、その笑顔にはどこか無理があり、私も動揺で何も言葉が出ませんでした。妻はそんな私たちを見て「……何か隠してるよね?」
私は胸が締め付けられるような感覚を覚えました。正直に話すべきか、それともごまかすべきか。そんな考えが頭を巡る中、妻は静かに微笑みました。そして、まるですべてを見透かしているかのような視線で言いました。
「話した方が楽になるんじゃない?」
妻の言葉に、私はすべてを打ち明ける覚悟を決めました。これ以上、隠し続けるのは無理だ。そう思ったのです。けれども、どう言葉にすればいいのか分からず、口を開いては閉じることを繰り返しました。彼女も目を伏せたまま何も言わず、ただ気まずそうに座っていました。
「すべて、俺の責任だ……」
私は声を絞り出しました。
「彼女に俺が手を出した。本当に申し訳ない。」
自分でも情けない言い訳だと思いながら、それしか言葉が出てきませんでした。妻は私の言葉を黙って聞いていましたが、やがて深いため息をつき、ぽつりとこう言いました。
「そう……やっぱりね。」
そして次の瞬間、妻がとった行動は、私の想像をはるかに超えていました。彼女は立ち上がり、静かに服を脱ぎ始めたのです。私は思わず声を上げそうになりましたが、あまりの驚きで声が出ませんでした。真由も同様に驚いた表情を浮かべていましたが、何も言えずに固まっていました。
妻はすべての服を脱ぎ終えると、柔らかな笑顔を浮かべながら彼女の方へ歩み寄りました。
「ごめんね。隠していて。」
そう言うと、真由の服も脱がしそっと抱きしめました。彼女は戸惑いながらも、その抱擁を受け入れ、涙を浮かべていました。
「あなたには言ってなかったけど、私と彼女は……学生時代からこういう関係なのよ。」
妻は穏やかな声で話し始めました。その声は驚くほど冷静で、まるで遠い過去の出来事を語るかのようでした。
「彼女とは、ずっと付き合ってたの。あなたと結婚してからも…ごめんなさい。私の方が先に裏切っていたの」
妻の言葉を聞きながら、私は胸の中に何とも言えない感情が湧き上がっていました。驚き、混乱、そして……納得。すべてが一気に押し寄せ、どう反応すればいいのか分かりませんでした。
「でもね、これで良かったのかもしれない。どうだった?初めての男性は。」
妻はそう言うと、真由の頬を優しく撫でました。その姿は、これまで見たことのないほど穏やかで美しく、私は思わず息を呑みました。
あれから数カ月が経ち、私たちは不思議な形で新しい生活を始めることになりました。そう、彼女が一緒に暮らすことに。最初は戸惑いや気まずさもありましたが、次第にその生活に慣れていきました。
ある日、3人で観劇に出かけた帰り道、妻がふと笑いながらこう言いました。
「こうして3人で一緒に暮らすなんて夢みたいね。」
その言葉に、真由も静かに微笑みながらうなずきました。
私もまた、これまで抱えていた罪悪感や葛藤が和らぎ、心に余裕を感じていました。不思議な関係だけれど、私たち3人にとってはこれが一番幸せな形なのだと思えたのです。さらにあの日以降の夜の生活については、なんと毎回3人で行うようになりました。
「近所の人には不思議に見られてるだろうなぁ。」
そうつぶやくと、妻と彼女は微笑みながら「別にいいじゃん。私達が良ければ」と二人で答えてくれました。
今では、私たちは3人で新しい日常を築いています。朝の食卓では笑顔が溢れ、休日は一緒に映画を見たり散歩に出かけたりと、穏やかな時間を過ごしています。この生活が「普通」とは言えないことは分かっています。でも、「幸せの形は人それぞれ」そう思えるようになりました。
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