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ヨガ講師との一夜の関係

いつまでも若く純愛背徳
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またこんなふうに人を求めるなんて。

そう感じた時には、すでに私は彼女と唇を重ねていました。

あの日、ヨガのレッスンが終わったスタジオは、しんと静まり返っていたのです。

参加者たちはすでに帰り支度を終え、室内には私と加奈子だけが残っていました。

帰ろうとしていたとき、彼女がそっと近づいてきます。

軽く会釈を交わしたそのとき、ふいに彼女の顔が近づいてきました。

そして、ごく自然な流れの中で、私たちは唇を重ねたのです。

柔らかくて、温かくて、でも不思議なほど静かな感触でした。

それが偶然だったのか、あるいは意図的なものだったのかは、今もわかりません。

ただ、その一瞬が、心の奥に眠っていた感情に火をつけたのでした。

私の名前は増田武史48歳、バツイチの男です。

数年前に離婚してからは、仕事中心の日々を送ってきました。

家と会社を往復するだけの毎日で、誰かと深く関わることもなく過ごしてきました。

そんな中、健康診断で運動不足を指摘され、会社の同僚に勧められるままヨガ教室に通い始めたのです。

最初は気後れもありましたが、通ううちに身体だけでなく、心にも少しずつ余裕が出てきました。

加奈子と出会ったのはこのヨガ教室で、彼女は隔週のインストラクターでした。

落ち着いた雰囲気の中に、ふとしたときに見せる影のようなものがあり、初めから気になっていたのかもしれません。

ある日、偶然立ち寄ったカフェで加奈子と出会い、初めて言葉を交わしたのです。

趣味の話や、休日の出来事など、ささやかな会話でとても楽しい時間でした。

何度か顔を合わせるうちに、二人で会う時間が自然と増えていきました。

加奈子と過ごす時間は、私にとって心地いい時間になっていったのです。

レッスン中に目が合うたびに気持ちが揺れる、そんなこそばゆい日々が、いつの間にか私の日常の一部になっていきました。

それまで曖昧にしていたものが、あの日から静かにかたちを持ちはじめたのです。

ある日の休日、私はふと喫茶店に立ち寄りました。

喫茶店に入ると見たことのある女性に視線が向いたのです。

彼女もこちらに気づき、静かに微笑み会釈をしてくれました。

その控えめな微笑みに、胸の奥が少しだけざわついたのを覚えています。

ヨガ教室のインストラクターだと思い出し、声をかけて向かいに座りました。

見覚えのある顔に、なぜか安心感のようなものを感じていたのです。

それが加奈子と初めて話した日でした。

出会いは静かでしたが、その記憶はやけに鮮明に残っています。

たまたま私も読んだことのある小説を加奈子が読んでおり、自然と話が盛り上がりました。

そこから、趣味の話、休日に作った料理の失敗談、昔見た映画の話など取り留めもない会話をしたのです。

言葉を交わすたびに、どこか心の奥に積もっていたものが、少しずつ溶けていくような感覚を覚えました。

私はこんなに誰かと楽しい会話をするのは久しぶりでした。

会話の中で、加奈子が笑いながらカップの縁に指をそっと添えたその仕草に、なぜか目を奪われてしまったのです。

何気ない動きが、妙に美しく感じたのを覚えています。

その動きが頭の中に残像のように焼きつき、家に帰ってからも、ふとした瞬間に思い出してしまうのです。

特別な会話をしたわけでもないのに、なぜか彼女の表情や声が妙に心に残りました。

気づけば、次にまた会えるかどうかを考えるようになっていたのです。

私は、この気持ちがなんなのか、気づいていない様にしました。

そうでもしないと、もう元には戻れなくなる気がしたからです。

何度か外で会い、話をするようになった私は彼女を意識するようになっていきました。

会えない日はどこか物足りなく、会えた日は心がふっと軽くなる──そんな感情の揺れが、少しずつ日常に溶け込んでいきました。

彼女のことをもっと知りたい、一緒にいたいと思うようになっていったのです。

加奈子と過ごす時間は穏やかで、会うたびにモノクロだった日常が、少しずつ色を取り戻していくのを感じました。

静かな幸福感のようなものが胸に広がっていくのを、私は止められませんでした。

しかし、何気ない会話から、加奈子が既婚者であり、夫と娘がいることを知りました。

その瞬間、心のどこかで「これ以上踏み込んではいけない」と強く思ったのをおぼえています。

けれど、理屈では抑えきれない感情が、私の中で静かに膨らんでいきました。

加奈子の寂しげな表情や、ふと漏らす言葉に触れるたび、私は心を大きく揺さぶられていきました。

彼女の放つ静かな寂しさに、私は引き寄せられていきました。

理由もなく心配になったり、ふとした瞬間に彼女のことを考えてしまうようになりました。

気づけば、彼女の存在が、日常のどこかに染み込んでいったのです。

それに気づくたび、私はもう戻れない場所に足を踏み入れている気がしてなりませんでした。

日々の雑踏に紛れても、ふとした瞬間に彼女の姿を探してしまう。

たとえば通い慣れた道のどこかに、ドアを開けるあの後ろ姿が見える気がして立ち止まる。

頭ではわかっているのに、心はいつも彼女を探していました。

そしてそんな自分を、もう否定できないと、私はようやく認めはじめていました。

ほんのわずかな触れ合いや、さりげない一言が、こんなにも深く心を揺らすことがあるなんて、加奈子と出会うまで、想像すらしていなかったのです。

ヨガレッスン中、加奈子の指導でそっと肩に触れられた瞬間、私は自分の心臓の鼓動が早くなっていくのを感じました。

マット越しに交わる視線、手が触れそうな距離、見つめ合う目線。

呼吸が浅くなり、意識していないふりをしても、彼女の存在が全身に沁み込んでくるのがわかりました。

言葉は交わしていないのに、なぜか強く引き合っているような感覚がありました。

触れなくても伝わるものがあると、初めて思った瞬間です。

言葉にしなくても、彼女も同じように思っていると感じる瞬間が、これまでも何度かありました。

ふと見上げたときの目線の交わり方や、話しているときの頬のゆるみ方。

それらのひとつひとつに、気づかないふりをしながらも、私は心の中で確信していたのです。

そしてきっと、彼女もまた、それをわかっていました。

ただ、どちらからもそれを口にすることはなかったのです。

空気の隙間に、互いの想いがそっと滲み出していたのだと思います。

ふたりの距離がぐっと縮まったのは、あるレッスンの帰り道のことでした。

同じ方向だったため、駅まで一緒に歩くことになりました。

夜風が少し冷たくて、歩道に伸びる街灯の光が、私たちの影を静かに並べていました。

その道すがら、加奈子がふと、つぶやくように言ったのです。

「たまに、自分が誰なのかわからなくなるときがあるんです」

その言葉が、なぜか胸に深く引っかかりました。

ほんの少し遠くを見るような瞳の奥に、言葉にしない痛みのようなものが滲んでいたからかもしれません。

私は返す言葉が見つかりませんでした。

その瞬間、私は彼女を好きだと、はっきり自覚してしまったのです。

手がふれそうでふれない距離を歩きながら、私はただ黙って彼女の横顔を見つめていました。

ふと視線が合ったその瞬間、加奈子ははっとしたように目をそらしました。

その頬がほんのり赤らんでいるのが、かえって胸を熱くさせたのです。

その時の空気はどこか柔らかく、言葉にしなくても何かが伝わってくる気がしていました。

そして、ある日のレッスン終わり。

参加者たちはすでに帰り、スタジオには私と加奈子だけが残っていました。

彼女は疲れたように肩を回しながら、ふとこちらを見て微笑み、ゆっくりと近づいてきたのです。

「おつかれさま」その一言に、私が軽く会釈を返した瞬間でした。

加奈子はほんの一瞬、立ち止まったまま私の顔を見つめていました。

何かを言いかけたように唇がわずかに動き、でも結局、何も言わずにそっと息を吐きました。

その目には、隠しきれないものがにじんでいて、私は思わず視線をそらすことができませんでした。

すべてを悟らせるような、静かで真っ直ぐなまなざしでした。

そして、ごく自然な流れの中で、加奈子がそっと顔を近づけてきたのです。

気づけば、私たちは唇を重ねていました。柔らかな感触と、互いの呼吸だけが混ざり合う。

触れた瞬間、胸の奥に眠っていたものがゆっくりと溶け出していくのを感じたのです。

腕が背中に回り、彼女の指先が私のシャツをそっとつかみました。

控えめに見えたその動きの奥に、迷いと覚悟が交差しているのが伝わってきました。

彼女の体温がじんわりと伝わり、私は思わず強く抱き寄せていたのです。

呼吸が速くなり、胸の鼓動が伝わるほど身体が近づいていきました。

何かを求めているのか、確かめているのか、自分でもわからなかったのです。

静まり返ったスタジオには、彼女の息づかいと、衣が擦れる音だけが響いていました。

私の理性は、静かに崩れていきました。

これが正しいことかどうかなんて、もう考える余地すら残っていなかったのです。

ただ、彼女の体温だけが確かで、それに包まれるように私は漲っていきました。

どれほどの時間が経ったのかはわかりません。

ふたりは声を押し殺して寄り添い、お互いの呼吸を感じながら、愛し合いました。

スタジオの時計が、まるで止まったように感じました。

外の車の音も、人の気配も、全てが一瞬だけ消えてしまったように思えたのです。

静まり返った空間で聞こえるのは、私たちの呼吸と音だけでした。

時間は確かに、この場所だけを取り残していました。

ただ、触れ合った体温と、重なる呼吸が、確かに“今”を形づくっている。

私自身女性を抱くなんて何年振りのことでしょうか。でもそんなことを考える余裕もなく、ただこの瞬間だけが、やけに濃く、長く感じられたのです。やがて、ふたりは果てました。

一度高ぶった気持ちが、ゆるやかに穏やかさを取り戻していきました。

見つめ合ったまま言葉は交わさなくても、互いの想いははっきりと伝わっていました。

あらためて、目の前にいる相手の存在を、心の奥で確かめるように──ふたりはそっと微笑み合ったのです。

額にそっと唇を重ねると、加奈子は目を閉じ、静かに息を吐きました。

その瞳には、安堵と、不安と、諦めのような感情がにじんでいたように見えたのです。

けれど、そのすべてを含めて、今の彼女を受け止めたいと強く願っていました。

一線を越えたという事実が、私たちを変えたのかどうかはわかりません。

ただこの瞬間、誰でもない彼女が、確かに私の腕の中にいました。

明日から何もなかったように過ごすことになるとしても、この夜の記憶は消えません。

たとえ言葉で交わす約束がなくても、心の奥に残った温もりが、私たちのすべてを物語っていたように思います。

静かに目を閉じた彼女を、私はそっと抱きしめました。

もう迷いはありませんでした。

加奈子の笑顔は変わらず、スタジオでの言葉遣いも、いつも通り丁寧でした。

けれど、ふとした瞬間に目が合ったとき、彼女の視線がかすかに揺れていたのです。

私はそれに気づきながらも、何も言うことができませんでした。

ある週末の午後、娘と待ち合わせた駅の改札で、加奈子の姿を見つけました。

娘の隣に立つ同年代の女の子、その横に彼女がいたのです。

時間が一瞬だけ止まったように感じ、視線の先に現実感がありませんでした。

加奈子も私に気づき、驚いたように目を見開いたのです。

後で娘にそれとなく尋ねると、少女は中学時代の友人で、加奈子はその子の母親だということでした。

その瞬間、背筋に冷たいものが走ったのです。

まさか、こんなかたちで彼女と自分がつながっていたとは思いもしませんでした。

心の奥で何かが、音を立てて崩れていくのを感じました。

その翌週、加奈子はスタジオに姿を見せませんでした。

受付で尋ねると、「しばらくお休みされるそうです」とだけ告げられたのです。

もどかしさだけが胸に残り、落ち着かないまま日々が過ぎていきました。

数日後、ようやく彼女を見かけました。

笑顔は変わらず穏やかで、声もいつも通りでした。

けれど、その笑顔にはどこか薄い膜が張られているように感じました。

互いの距離をそっと遮る、透明な壁のようだったのです。私は思わず声をかけました。

「体調でも、悪かったんですか?」加奈子は小さく微笑みながら、静かに言いました。

「今日で、しばらくクラスをお休みします」

「……あの夜のこと、忘れてください。やっぱり、間違いだったと思うんです」

それだけ言って、彼女は何かをこらえるように目を伏せたのです。あの夜、私たちは確かに求め合いました。

触れた手も、重ねた唇も、震えるような呼吸も、すべてが本物だったと私は思っています。

けれど今、彼女はそれを「なかったこと」にしようとしています。

その時、駅で見た少女と、母としての加奈子さんの表情が頭をよぎりました。

この関係は、終わらせるべきなのかもしれません。

きっと、それが正しいのでしょう。それでも、もう後戻りなどできなかったのです。

加奈子がスタジオを辞めるという噂を耳にしたのは、それからしばらく経った頃でした。

週に一度、楽しみにしていたものがなくなり、色のない世界に放り込まれたような日々が続いていました。

何をしても心がついてこず、景色のすべてがどこか遠く感じられたのです。

けれど、あの夜のことは消えることなく、日々、胸の奥で静かに息づいていました。もう一度だけ会いたい。

しかしその願いもかなわず、ただただ毎日が過ぎていきました。

半年くらいたった後、ふとあの時の喫茶店の前を通り過ぎました。

胸の奥にしまっていた記憶が、切なくも鮮やかによみがえってきたのです。

懐かしくなって中に入ると、そこには見慣れた姿がありました。

カップを手にしたまま、こちらを見て驚く加奈子がいたのです。

驚いた顔はすぐにゆるみ、少し照れたような笑みに変わっていきました。

2人は初めて会った日のように、会釈をし、向かい合って座りました。

長い沈黙の後、加奈子は少しづつ自分の状況の話を始めたのです。

家族のこと、心の葛藤、離れる決意と、その後の迷いを。

言葉を選ぶように、少しずつ語られる本音は、胸に静かに沁みていきました。

話が終わると、加奈子はほっとしたように私を見て微笑んだのです。

その表情があまりに美しくて、私はしばらく目をそらせなかったのです。

二人で店を出た頃には、夕暮れの街が少し肌寒く感じられました。

見上げた空には、うっすらと茜色が滲んでいました。

あの夜とは違う、静かな時間がそこには流れていたのです。

加奈子は小さく笑い、ゆっくりと目を閉じました。

その横顔を見つめながら、私は思いました。

─これは終わりではなく、始まりなのだと。

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