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私を選んでくれた彼

いつまでも若く純愛

今日は久しぶりに、直人とデートの約束をしていた日。彼とは結婚の話も進んでいて、近いうちに夫婦になる予定だった。仕事が忙しくてなかなか会えない日々が続いていたけど、やっと二人で過ごせる時間ができたことが嬉しくて、今日は朝から心が弾んでいた。

でも、待ち合わせ場所に着いてからから電話がかかってきた。「ごめん、残業で行けそうにないんだ。ほんとにごめん!」申し訳なさそうに話す彼の声を聞きながら、私は少しだけ残念な気持ちを隠して、「仕方ないよね、仕事だもん。でも、次は絶対お詫びしてよね?」と軽く返した。そうは言ったけれど、電話を切ると心にぽっかりと穴があいたような寂しさが押し寄せた。久しぶりに直人に会えると思っていたのに、また仕事に取られてしまった気がして、なんだか物足りない気分だった。

帰り道、そんなことを考えながらぼんやりと歩いていた時、突然視界が真っ暗になった。大きな音がして、身体に衝撃が走り、痛みを感じたのはその一瞬だけ。その後は意識が途切れて、全てが無音になった。

目が覚めた時、私は病院のベッドにいた。何が起きたのかすぐには理解できず、ただぼんやりと天井を見つめていた。しばらくしてから、看護師が入ってきて、私は大きな事故に巻き込まれたのだと教えてくれた。骨盤を折っていて、内臓にも損傷があったけど、命に別状はないとのことだった。直人は何度も見舞いに来てくれて、その度に「元気になったら、また二人で一緒に出かけよう」と励ましてくれた。だけど、私はどこか心の中に不安を抱えていた。

ようやく動けるようになった頃、医者から言われた言葉が、私をさらに追い詰めた。「足の麻痺などは残らないでしょう。が、妊娠は難しいかもしれません。」その瞬間、心臓がぎゅっと握りつぶされたような感覚に襲われた。ずっと夢見てきたこと――直人と結婚して、子供を授かって、家族を築くという未来が、まるで霧のように消えていくのを感じた。直人にこの事実をどう伝えたらいいのか、そして彼はどう受け止めるのか、考えるだけで胸が苦しくなった。

直人に話すと、彼はすぐに「大丈夫だよ、理沙。子供がいなくても、俺は理沙と一緒にいたいんだ」と優しく言ってくれた。その言葉に少し救われたけれど、本当にそれでいいのかという不安が消えなかった。彼は私を愛していると言ってくれたけれど、私が彼の夢を壊しているような気がして、罪悪感が消えなかった。

そして、退院から1か月後のある日、直人の両親から食事に誘われた。久しぶりに会う直人の両親は、いつも通り穏やかに接してくれたけれど、直人が酔いつぶれて寝てしまった後に突然、信じられない言葉が飛び出してきた。「理沙さん、直人とは別れてください。」とご両親から頭を下げられた。

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。「子供ができないんでしょう?やっぱり子供が必要なの。だから、直人のために別れてあげてください。」その言葉は、私の胸に冷たく突き刺さった。直人の両親が私にそんなことを言うなんて、夢にも思っていなかった。ただ、ショックで声が出ず、涙も出なかった。その後も何か言っていたが、ただ静かにその場を立ち去った。家に帰る途中、全身から力が抜けていくような感覚を覚えた。

家に帰ってからは、涙が止まらなかった。直人との未来が、もうないかもしれないという現実が一気に押し寄せてきた。翌朝、直人から電話があったけれど、どうしても彼の声を聞くことができなかった。何も知らない彼が無邪気に「昨日はごめん。飲み過ぎちゃったよ。あの後、親とうまく話せた?」なんて聞いてきた時、私は耐えられなくなり、「私たち、別れよう」と口走っていた。直人は驚いて「なんで急にそんなこと言うんだ?」と問い詰めてきたけれど、私はそれ以上何も言えずに、電話を切った。その後彼が何度もかけ直してきたけれど、電話に出ることはできなかった。

私は一人になりたくて、実家に帰ることにした。頭の中は混乱していて、何をどう考えればいいのか分からなかった。ただ、少しだけでも距離を置いて、静かに考える時間が欲しかった。急に帰ってきた私にびっくりした両親には、ただ「ちょっと疲れたんだ」とだけ伝えた。

それから三日後、直人が実家にやってきた。涙を浮かべながら「両親からあの日のことを聞いた。本当にすまなかった。俺には……理沙がいない人生なんて考えられないんだ」と言って、私をぎゅっと抱きしめてくれた。彼の温かさが伝わってきて、私も抑えていた感情が一気に溢れ出した。「ごめんね、私も……」涙が止まらなかった。直人は続けて「子供がいなくても、俺にはお前だけで十分なんだよ」と言ってくれた。その言葉を聞いた瞬間、私は本当に安心して、心の中に残っていた不安がすっと消えた。

その後、直人の両親も改めて謝罪に来てくれて、二人で結婚を決めた。長い道のりだったけれど、直人の優しさと私たちの絆は、これからもずっと変わらないと信じられるようになった。

そして、40歳を目前にしたある日、奇跡のようなことが起きた。私は妊娠していると告げられた。医者は「自然分娩は難しいですが、帝王切開なら問題ないでしょう」と言ってくれた。私はその時、涙が止まらなかった。「無事に生まれてきてね」とお腹に手を置き、必ず守ると心に誓った。それから直人と二人で新しい命を迎える準備を始め始めた。直人も涙をこらえながら「奇跡だよ、本当に」と私を抱きしめてくれた。これからどんな未来が待っているのか、まだ分からないけれど、今はただ、この瞬間が幸せで、それだけで十分だった。

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