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夫が私をスワップしようと画策していた

いつまでも若くスワッピング系

30代も終わりに近づいた頃、私たちの夫婦関係は、思っていた以上に脆かったのだと気づいた。振り返れば、あれはある種の奇跡のようなものだったのかもしれない。私と翔太は既に二十年以上の付き合い。出会いは学生時代で、気づけば夫婦になっていた。愛し合い、信じ合い、何も疑うことのない関係だと信じていた。互いにそれが当然だと思っていた。でも、どこかに綻びはあったのだ。

私の毎日は、静かで平凡なものだった。平凡という言葉には、どこかつまらない響きがあるけれど、私にとってはそれが幸せだった。子供はいなかったけれど、私はそれに不満はなかった。夫と一緒にいる時間が心地よかったし、彼の笑顔を見るだけで、満ち足りた気持ちになれた。職場もそれなりにホワイトで、心穏やかに日々を過ごしていた。何も問題はない、そう思っていた。それが崩れたのは、たった一言からだった。
「雄平と陽子さんと、今度4人で食事しないか?」
夕食を作っていた時、翔太がそんな提案をしてきた。最初は軽い誘いだと思った。雄平さんとは夫の友人で、付き合いも長い。陽子さんとは彼の妻。私も何度か会ったことがあるけれど、特別親しいというわけでもない。だから、その提案自体には大きな違和感はなかった。けれど、続く言葉が私を動揺させた。
「俺は陽子さんと話すから、真理子は雄平と仲良くしていてくれ」
……仲良くしていてくれ?
その言葉の意味を、私は一瞬理解できなかった。ただの社交辞令?それとも、何か他の意図がある?私が口を開きかけた瞬間、翔太はさらに続けた。
「一回だけだからさ」
その言葉の重みが、ゆっくりと私の胸に沈み込んでいった。ふざけているんだと思いたかった。でも、夫の顔は冗談のようには見えなかった。私は何も言えずに彼を見つめるだけだった。心の中で何かがざわめき出した。この違和感の正体は何なのか、そう、それは“スワップ”だ。夫婦間のスワップ。それが彼の言いたかったことなのだと、理解するのに時間はかからなかった。
「どういうこと?」私はようやく声を絞り出した。けれど、翔太は軽く笑って「一回だけだって」と繰り返しただけだった。
一回だけ……それで、何が変わるというのだろう?いや、何も変わらないはずがない。何かが変わってしまう予感が胸の中で膨らんでいく。それでも、翔太の言葉を否定することができなかった。
「雄平がしつこくて断れないんだよ」と翔太は言った。彼の声はいつもの調子だったが、私はその背後に何か隠されたものを感じた。

 その夜、私はベッドで何度も寝返りを打った。翔太が隣で静かに眠る姿を見つめながら、心の中で何度も問いかけた。「本当に、これでいいの?」と。だが、その問いに答える術はなかった。そして、ついにその日が来てしまった。
レストランに到着した時、私は無理やり笑顔を作った。陽子さんは、普段から笑顔の多い人だったが、今日は何か違う雰囲気を纏っているように感じた。私たちは形式的な挨拶を交わし、座席に着いた。周りはカジュアルで落ち着いた雰囲気の店だった。いつもなら、こうした場所での食事を楽しむ余裕があったはずなのに、今は何もかもが不自然に感じられる。
「今日はお招きいただいて、ありがとうございます」と私はできる限り礼儀正しく言った。
「いえ、こちらこそ、わがままに付き合ってもらってごめんなさいね」と陽子さんは笑った。だが、その笑顔の裏にある意図が、私には見えない。いや、見えてしまったのかもしれない。
私の目の前には、夫と陽子さんが並んで座った。陽子さんは夫にさりげなく体を寄せ、彼もまたそれを拒むことなく受け入れている。まるで自然なことのように。まるで、それが当たり前の光景であるかのように。
目の前の料理の香りが鼻をくすぐるが、何も食べる気になれない。ただ、視線が彼らの動きに吸い寄せられてしまう。
(本当に、これでいいの?)
その思いが頭の中を駆け巡る。私の夫は、私が知っている翔太ではないのかもしれない。私は、彼を信じられないのだろうか?そんな疑念が胸の中で膨らんでいく。そして、それが一気に崩れ落ちる瞬間が訪れた。

徐々にお酒が入り、陽子さんのスキンシップが激しくなった。夫の肩に軽く手を置き、彼の耳元で何か囁いた。その仕草があまりにも親密で、私は思わず目を逸らした。けれど、次の瞬間には視線を戻していた。翔太は陽子さんに微笑みかけ、その顔は、、まるで私に見せたことのない表情だった。

隣で雄平さんが何か話しているが正直頭に何も入ってこなかった。そして、私の中で何かが切れた。
「ちょっと失礼します」
私は席を立ち、慌てて店を飛び出した。どこか冷静なふりをしていたが、内心は嵐のようだった。頭の中で感情が渦巻き、どうしようもなく混乱していた。
外に出ると、冷たい風が顔に吹きつけた。それが少しだけ私の熱くなった頬を冷ましてくれたが、心の中の混乱は収まらない。何度も何度も脳裏に浮かぶのは、夫と陽子さんが親密に寄り添っている光景だった。
(なによ!デレデレしちゃって!)
家に帰ってしばらくすると、翔太が息を切らして帰ってきた。私はリビングに座り込み、彼の姿を待っていた。
「真理子……ごめん。ちょっと飲み過ぎた。」翔太がため息交じりに言った。私は彼の方を見ずに、ただ視線を下に落としたままだった。
「ごめん。俺が全部間違ってた。陽子さんがあんなふうに甘えてくるなんて思わなかったんだ。俺、酔って調子に乗り過ぎてた。本当にごめん」
その言葉を聞いた瞬間、心の中で何かが揺れた。怒りや悲しみ、そしてわずかな安心感が混ざり合って、感情の波が押し寄せた。
「そう……酔ったら何でも出来るのね…」私はそれだけしか言えなかった。
「本当にごめん。俺、もう二度とこんなことしない。絶対にもうしない」
「本当に反省してるの?」
「あぁ。もう二度とお前を悲しませたりしない」
彼は私の目の前で立ち尽くし、真剣な眼差しで私を見つめていた。私の中では、彼を信じたいという思いと、信じられないという思いがせめぎ合っていた。
彼は立ち上がり、私に歩み寄った。そして翔太は何も言わずに、ただ私を強く抱きしめた。「次やったら離婚だからね!」

彼が返事と共に強く抱きしめる。久々に感じたそのぬくもりが心地よく感じられた。彼の腕の中で、ようやく安心感に変わり私は涙が溢れてくるのを感じた。
その夜、私たちはベッドに入り、ただ静かに寄り添った。何も言葉は交わさなかった。翔太の手が私の背中をそっと撫でるたびに、心の中に積もっていた氷が少しずつ溶けていくような気がした。彼の呼吸のリズムが伝わってくる。彼がここにいて、私を抱きしめてくれている。それだけで、ほんの少しだけど救われた気がした。

けれど、完全に許すことはできなかった。過ぎ去ったことは取り戻せない。あの時感じた痛みと悲しみが消えることはないだろう。けれど、今は彼をそばに感じていたい。そう思った。
翌朝、彼は少し疲れた顔で私を見つめていた。
「もうお酒はやめるよ。あんなこと、二度としない」
「……本当に?約束できる?」「うん、約束する」

その言葉に、私は小さく頷いた。信じられるのかどうかはわからない。けれど、今はそれでいいのかもしれない。人は、そう簡単に変わらない。だけど、変わろうとする意思は信じてみたい。私は静かに彼の手を握った。未来がどうなるのかなんて、誰にもわからない。だけど、今はまだ彼の隣にいたいと感じた。それだけで十分だった。

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