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婿の父がまさかの

いつまでも若く感動純愛
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「お母さん、話があるの」

休日の午後、私は夜勤明けでぼんやりしながらコーヒーを飲んでいた。

娘の麻衣子が、いつもと違う真剣な表情で私の前に座る。

「どうしたの?」

「……結婚したい人がいるの」私は一瞬、カップを持ったまま動きを止めた。

「え?」

「うん、もう何年も付き合ってるんだけど、ちゃんとお母さんに紹介したいと思って」

驚きとともに、じわりと胸が熱くなる。ついこの間まで「結婚なんてまだまだ先」と言っていた娘が、結婚を考えるようになったなんて。

「どんな人なの?」

「高橋優斗くん。28歳で、公務員をしているの」

私は思わず安心のため息を漏らした。苦労して育てた娘が、ちゃんと安定した人生を選ぼうとしているのは、母親として素直に嬉しかった。

「良かったじゃない。ちゃんとしたお仕事についてるのね」

「うん。すごく真面目で優しい人だよ」

「それで、会わせてもらえるの?」

「もちろん! 今度うちに連れてきてもいい?」

「もちろんよ!」数日後、玄関のチャイムが鳴り、私は軽く深呼吸をしてドアを開けた。

そこに立っていたのは、清潔感のあるスーツ姿の青年だった。

「はじめまして。高橋優斗です」深々と頭を下げるその姿に、礼儀正しさが滲み出ていた。

リビングで向かい合いながら話すうちに、私は彼がしっかりとした考えを持った青年であることを確信した。

「優斗くんは、どんなご家庭で育ったの?」

「母は僕が8歳の時に事故で亡くなりました。それからは父が一人で育ててくれました」

「お父さんが……?」

「はい。仕事をしながら家のこともしてくれました。今は居酒屋を営んでいます」

飲食業をしながら子育てをするのは並大抵のことではない。私は、そんな父親を尊敬する気持ちが優斗くんの中にあることを感じ取った。

「立派なお父さんね」

「ええ。でも、少し頑固なところがあって……」彼が少し言い淀んだのが気になったが、私はこの時、それが何を意味するのかまでは考えなかった。私は安心し、笑顔で言った。

「優斗くん、これから麻衣子をよろしくお願いします」

それからしばらく経ったある日。麻衣子の様子がどうもおかしい。食事の量が減り、表情にも覇気がない。

「麻衣子、大丈夫? 何かあったの?」最初は「ううん、なんでもない」と誤魔化していたが、ついに涙をぽろぽろこぼしながら打ち明けた。

「優斗くんのお父さんが…結婚に反対してるの」

「え?」

「何を言ってもダメなの…会ってもくれないって…」私は愕然とした。

「何か理由があるの?」「それが……全然わからないの」

麻衣子は、悔しさをにじませながら続けた。

「優斗くんがいくら説得しても、絶対に認めないの一点張りで、話すら聞いてくれないんだって……」

「そんなの…ひどいじゃない」怒りがこみ上げた。あんなにいい子なのに、なぜ認めてもらえないのか。

麻衣子の肩にそっと手を置いた。

「…お母さんが直接会って話してみるわ」

「でも…私たちが会いに行っても追い返したんだよ?」

私は翌日準備中の時間を狙って、目的の居酒屋へ向かった。

この時間ならまだ仕込み中のはずだ。店の前に立ち、深く息を吸う。

「よし…」引き戸をそっと開けると、カウンターの奥に一人の男性がいた。その顔を見た瞬間、私は息を呑んだ。

「…正志…さん?」彼も驚きに目を見開いたまま、言葉を失っていた。

「…明美?」

高橋正志。私が若き日に愛した人であり、結婚を誓いながらも引き裂かれた人がそこに立っていた。

「まさか……あなたが優斗くんのお父さん……なの?」20年以上の時が経ち、こんな形で再会するなんて、思いもしなかった。

「…座って」彼の声は低く、少しかすれていた。私はゆっくりと席に座る。

「…麻衣子は、あなたの子よ」正志は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。

「…そうか、やっぱり…」その一言が、胸に突き刺さる。

ということは―

「優斗くんと麻衣子……兄妹になっちゃうの……?」

「それは違う!」正志は力強く首を振った。

「優斗は、俺の前妻の連れ子だ。血のつながりはない。」私は息を詰まらせた。

「…そうだったの…?」

「優斗が8歳の時に妻が事故で亡くなった。それからは俺が育ててきたんだ」私はただ黙って彼の言葉を聞いていた。

「でも……それなら、どうして結婚に反対したの?」私の問いに、正志は苦しそうに目を伏せた。

「……会った瞬間に、わかったんだ。麻衣子が俺の子供だって」

「でも、お前が伝えていないなら、俺も言えなかった。だから、俺は……」私は拳を握った。

「……もう隠しておく理由はないわ。麻衣子と優斗くんに、話しましょう」正志はしばらく目を閉じ、そして深くうなずいた。

翌日、私たちは優斗くんと麻衣子を呼び出した。二人とも少し緊張した表情をしている。私は深く息を吸い、ゆっくりと話し始めた。

「優斗くんのお父さんと私は……昔、付き合っていたの」麻衣子の目が大きく見開かれる。優斗くんも驚き、私と正志さんを交互に見た。

「でも、いろいろな事情があって、引き裂かれたの。私は妊娠していたけど、そのことを伝える前に別れさせられた。そして……麻衣子が生まれたの」

静まり返る部屋の中で、時計の秒針の音だけがやけに響いていた。

「え……つまり……?」

「麻衣子、あなたのお父さんは……正志さんなのよ」麻衣子は息を呑んだまま動かない。優斗くんも顔を強張らせている。

「ってことは……俺たち……」優斗くんが震える声で言いかけたところで、正志さんが静かに首を振った。

「優斗。違うんだ。俺と優斗に血のつながりはない」二人は顔を見合わせ、安堵と混乱が入り混じったような表情になった。

「こんなことって……」麻衣子は呆然とつぶやいた。しばらく沈黙が続いた後、優斗くんが静かに口を開いた。

「俺は……麻衣子と結婚したいって気持ちは変わりません。でも、急に本当の親父じゃなくて麻衣子の父だったなんて…正直、まだ頭が追いつかなくて…」麻衣子も複雑そうな表情をしていた。

「少し……考える時間をもらってもいいですか?」私はうなずいた。

「もちろん。無理に結論を出さなくてもいいのよ」正志さんも「ゆっくり考えたらいい」と優しく言った。

麻衣子と優斗くんは、悩みながらも最終的に結婚を決意した。私たちは、そんな二人を全力で応援することにした。

そして、娘を送り出した後の私は――不思議な感覚に包まれていた。長年、一人で育ててきた娘が巣立っていった寂しさと、安心、そしてこれからの自分の人生をどう歩んでいくのかという漠然とした思い。でも、そんなことを考える暇もないほど、毎日は慌ただしく過ぎていった。

ある日、麻衣子から電話がかかってきた。

「お母さん、ちょっと話があるんだけど」

「どうしたの?」

「旅行に行こうよ! 家族みんなで」

「旅行?」

「うん、草津温泉! ほら、お母さん忙しくてなかなか旅行とか行かないでしょ? だから、私たちからのプレゼント」私は少し驚いた。結婚して新生活が始まったばかりの二人が、こんな風に気を遣ってくれるなんて。でも、久しぶりの温泉旅行なんて、悪くないかもしれない。

「ありがとう。でも……“家族みんなで”って?」

「もちろん、優斗くんと私、そして……お母さんと、お父さんも!」

「えっ?」

「お母さんとお父さんが一緒に旅行するの、いい機会じゃない?」一瞬、言葉が出なかった。

「……そ、それはちょっと……」

「いいじゃない! 私のお父さんなんだから!」麻衣子の言葉に押される形で、私はこの旅行に参加することになった。

旅行当日、草津温泉の旅館に着いた私は、久しぶりののんびりとした時間に、心が少し軽くなるのを感じていた。

紅葉が美しい景色を作り出し、温泉の湯気がやわらかく漂っている。

「やっぱり温泉っていいわねぇ……」思わず独り言のように言うと、隣にいた正志さんが、くすっと笑った。

食事の時間になり、大広間に移動すると、麻衣子と優斗くんが、なぜかそわそわしていた。

「どうしたの? なんか落ち着かないわね」

「え? う、ううん、なんでもないよ!」そんな様子を不審に思いながらも、豪華な温泉旅館の料理を楽しんだ。

食事も終わりかけた頃、突然、部屋の照明が少し落とされ、落ち着いた音楽が流れ始めた。

そして、二人が立ち上がり、私と正志さんの前にやってきた。

「お母さん、お父さん……今日は、二人に伝えたいことがあるの」

「え?」

麻衣子は少し緊張しながら、それでもはっきりとした口調で続けた。

「お母さん、お父さん……私たち、ずっと思ってたの。二人が離れ離れになって、何十年もすれ違ってきたけど、本当は今でもお互いのことを大切に思ってるって」私は一瞬、息を呑んだ。

まさか、こんな話をされるとは思っていなかった。

「だから、私たちからのお願い。今度こそ、ちゃんと一緒になってほしい」その言葉とともに、優斗くんが、テーブルの上にそっと何かを置いた。

それは――婚姻届だった。

「これは……?」

「お二人には、ちゃんと夫婦になってほしいんです」私は言葉を失った。正志さんを見ると、彼も驚いた顔をしながらも、静かに微笑んでいた。

「お前たち……」

「私たちがこうやって結婚できたのも、ある意味、お父さんとお母さんが巡り会ったから。だったら、今度は二人が幸せになってもいいと思うの」

私は、麻衣子の言葉に涙が溢れて大泣きしてしまった。今まで一人で麻衣子を育てる辛さ、寂しさ全てが込み上げてきた。

「今度こそ……一緒に生きていこう」その時正志さんのその言葉に、私は静かに、でもはっきりとうなずいた。

「うん」

何十年もすれ違い、ようやく巡り合えた私たち。これからの人生、今度こそ一緒に歩んでいく。私はそっと、正志さんの手を握った。

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