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初体験のもうすぐアラフォーの彼女

いつまでも若く年の差背徳裏切り
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 あの夜のことを、俺は一生忘れないだろう。

 「丈夫さん……」

 涼子が、ためらいがちに俺の名を呼んだ。あれほど静かな声で自分の名を呼ばれたのは、六十一年の人生で初めてだった。グラスの氷が溶ける音が、やけに大きく響いていた。俺たちの間に流れる空気は、まるで薄いガラスの膜のように張り詰めていた。

 唇が触れ合うまで、ほんの一瞬だった。だが、その一瞬が、俺の人生のすべてを変えてしまった。

 「えっ、こんな関係アリなのか?」

 自分の心の声に、思わず苦笑した。だが、現実に起きていることなのだ。六十一歳の俺と、三十八歳の涼子。年齢差も、立場も、何もかもが「普通」ではない。だが、その夜、俺たちは「普通」から外れる選択をした。

 ――どうして、こんなことになったのか。

 俺は、妻の真理と静かな生活を送っていた。子どもはいないが、長年連れ添った妻との日々は、穏やかで、何も不満はないはずだった。だが、心のどこかに、埋めきれない空白があったのも事実だ。

 涼子と出会ったのは、図書館だった。春先の、まだ肌寒い日。俺はいつものように、新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。ふと視線を上げると、窓際の席で一人、本に没頭している女性がいた。それが涼子だった。

 彼女は、どこか影のある美しさを持っていた。黒髪をきちんとまとめ、地味な服装なのに、なぜか目を引く。俺はなぜか、その姿から目を離せなかった。

 数日後、偶然同じ本を手に取ったことで、俺たちは会話を交わすようになった。

 「この作家、お好きなんですか?」

 涼子が、控えめに話しかけてきた。俺は驚きつつも、嬉しさを隠せなかった。

 「ええ、昔から好きで……。あなたも?」

 「はい。……でも、こうして誰かと本の話をするの、初めてなんです」

 その言葉に、なぜか胸が締め付けられた。彼女の瞳には、どこか怯えたような色が浮かんでいた。

 それから、俺たちは何度も図書館で顔を合わせ、少しずつ会話を重ねていった。彼女は人付き合いが苦手で、男性と話すのも得意ではないという。だが、俺には少しずつ心を開いてくれた。

 「丈夫さんは、どうしてそんなに優しいんですか?」 ある日、涼子がぽつりとつぶやいた。

 「優しいなんて……俺は、ただの年寄りですよ」

 「そんなことありません。……私、男の人とまともに話したこともなくて。丈夫さんと話してると、なんだか安心するんです」

 その言葉が、俺の心の奥に静かに染み込んだ。

 それからしばらくして、俺たちは図書館の外で会うようになった。喫茶店でコーヒーを飲み、時には公園を散歩した。涼子は、少しずつ笑顔を見せるようになったが、どこかでいつも怯えているようだった。

 「丈夫さん、私……男の人と付き合ったことがないんです。ずっと、怖くて」

 涼子がそう打ち明けた夜、俺はどう答えていいかわからなかった。ただ、彼女の手をそっと握ることしかできなかった。

 その手は、かすかに震えていた。

 ――俺は、何をしているんだろう。 真理の顔が、ふと脳裏をよぎった。俺は、妻を裏切ろうとしている。だが、涼子の不器用な優しさに、どうしようもなく惹かれていく自分がいた。

 あの夜、バーのカウンターで、俺たちは初めて唇を重ねた。涼子の瞳は、涙で揺れていた。

 「丈夫さん、私……」 その先の言葉は、聞こえなかった。ただ、俺たちは静かに抱き合った。

 人生の春は、とっくに過ぎたと思っていた。だが、あの夜、俺の心には確かに新しい光が差し込んでいた。

 ――この関係が、どんな結末を迎えるのか。俺にはまだ、わからなかった。

 俺の名前は丈夫。六十一歳。かつては高校で国語を教えていた。今は退職し、妻の真理と二人、静かな年金生活を送っている。毎朝、決まった時間に目を覚まし、新聞を読み、コーヒーを淹れる。真理は穏やかで、よく気のつく女房だ。子どもはいないが、長年連れ添った安心感がある。だが、時折、心のどこかにぽっかりと穴が空いているような感覚に襲われることがあった。

 涼子と出会ってから、その穴が少しずつ埋まっていくのを感じていた。

 あの夜のキスは、夢のようだった。だが、現実は静かに日常へと戻っていく。翌朝、俺は何事もなかったように真理と朝食をとった。真理はトーストにバターを塗りながら、「最近、よく出かけるわね」と言った。

 「図書館でな、ちょっと読みたい本があって」

 自分でも驚くほど自然に嘘が口をついた。罪悪感が胸の奥で疼いた。だが、涼子のことを真理に話すわけにはいかなかった。

 涼子とは、あれからも時折会っていた。図書館、喫茶店、公園。決して派手な場所ではない。だが、彼女といると、世界が少しだけ鮮やかに見える気がした。

 ある日、喫茶店の窓際で、涼子が小さな声で言った。

 「丈夫さん、私……本当は、ずっと怖かったんです。男の人と二人きりでいるのも、手をつなぐのも。でも、丈夫さんといると、不思議と怖くないんです」

 俺は、彼女の手をそっと握った。涼子の指は細く、少し冷たかった。彼女の手を包み込むように、自分の手で温めた。

 「無理はしなくていいよ。お父さんみたいな歳だしね」

 そう言いながらも、心の底ではもっと近づきたいという欲が渦巻いていた。だが、彼女の初々しい戸惑いを壊したくなかった。

 涼子は、俺の顔をじっと見つめた。

 「丈夫さんは、どうしてそんなに優しいんですか?」

 「俺も……怖いんだよ」

 「え?」

 「自分が、誰かを本当に好きになるなんて、もうないと思ってた。真理と静かに暮らしていく、それだけでいいと思ってた。でも、涼子さんと出会って、心がざわついて……正直、戸惑ってる」

 涼子は、ほんの少しだけ微笑んだ。

 「私もです。丈夫さんといると、胸が苦しくなる。でも、嫌じゃないんです」

 俺たちは、長い沈黙の後、そっと見つめ合った。喫茶店の窓の外では、春の雨が静かに降っていた。

 ――この気持ちは、どこへ向かうのだろう。

 その日、別れ際に涼子がふいに俺の手を握った。

 「丈夫さん、私……もう少しだけ、そばにいてもいいですか?」

 俺は、ただ頷くことしかできなかった。

 家に帰ると、真理がテレビを見ながら俺を迎えた。俺は、何もなかったように微笑んだ。だが、心の中では涼子のことが離れなかった。

 夜、ベッドに入っても眠れなかった。真理の寝息を聞きながら、俺は天井を見つめた。罪悪感と、涼子への想い。その二つが、胸の中でせめぎ合っていた。

 翌週、涼子と図書館で会ったとき、彼女は少しだけ明るい表情をしていた。

 「丈夫さん、今度、一緒に美術館に行きませんか?」

 「美術館?」

 「はい。前から行ってみたかったんです。でも、一人じゃ勇気がなくて……」

 「いいよ。俺も久しぶりに美術館なんて行ってみたい」涼子は、ほっとしたように微笑んだ。

 美術館の静かな空間で、俺たちはゆっくりと絵を眺めた。涼子は、絵の前でじっと立ち止まり、何かを考えているようだった。

 「丈夫さん、この絵、好きですか?」

 「うん。なんかいいよね、どこか温かくて」

 「私、こういう絵を見ると、少しだけ勇気が出るんです」

 「どうして?」

 「絵の中の人たちが、誰にも邪魔されずに、自分の時間を生きているから……」

 俺は、涼子の横顔をそっと見つめた。彼女の中には、まだ誰も踏み込んだことのない世界が広がっているのだろう。

 美術館を出たあと、俺たちは静かなカフェでコーヒーを飲んだ。涼子は、少しずつ自分のことを話してくれるようになった。

 「私、小さいころから人と話すのが苦手で……学校でも、友達ができなかったんです。だから、丈夫さんとこうして話せるのが、すごく不思議で……」

 「俺も、君と話してると若返った気がするよ」 涼子は、恥ずかしそうに笑った。その帰り道、涼子がふいに立ち止まった。

 「丈夫さん……私、丈夫さんのことが好きです」その言葉は、春の風のように優しく、でも確かに俺の胸に届いた。

 「俺も……君のことが好きだよ」俺たちは、そっと手をつないだ。触れ合う指先から、静かな熱が伝わってきた。

 ――このまま、どこまで行けるのだろう。心の奥で、何かが静かに動き始めていた。

 涼子と過ごす時間が、俺にとってかけがえのないものになっていった。だが、その幸福感の裏側に、どうしようもない罪悪感がじわじわと広がっていくのを感じていた。ある夜、真理がふいに俺を見つめて言った。

 「最近、なんかおかしくない?」

 俺は一瞬、心臓を掴まれたような気がした。だが、努めて平静を装い、「そうか?年のせいかな」と笑ってごまかした。真理はそれ以上何も言わなかったが、そのまなざしが妙に胸に残った。

 ――俺は、何をしているんだろう。

 涼子と会うたび、心が揺れた。彼女は相変わらず不器用で、時折、子どものような無垢な表情を見せる。だが、その奥に隠された孤独や、誰にも言えなかった痛みを、俺は少しずつ知るようになっていた。

 ある雨の日、俺たちは小さな喫茶店の奥の席に座っていた。外はしとしとと雨が降り続き、店内には静かなジャズが流れていた。

 「私……ずっと悩んでたんです」涼子が、カップを両手で包み込むようにして言った。

 「何を?」

 「丈夫さんには、大切な奥さんがいるのに……私、こんな気持ちになっちゃいけないって。でも、どうしても止められなくて……」

 俺は、言葉に詰まった。自分も同じ気持ちだった。涼子を傷つけたくない、でも、真理を裏切っている自分にも耐えられない。

 「俺も同じだよ。君といると、楽しいから。でも、その分罪悪感もある…かな…」

 涼子は、少しだけ涙ぐんだ。

 「ごめんなさい……私、丈夫さんを困らせてばかりで」

 「そんなことない。俺は、君と出会えてよかったって思ってる」

 涼子は、そっと微笑んだ。その笑顔を見て、俺はどうしようもなく彼女を抱きしめたくなった。だが、店内ということもあり、ただそっと彼女の手を握ることしかできなかった。

 帰り道、俺たちは雨の中を並んで歩いた。傘の下、涼子がぽつりと言った。

 「丈夫さん、私、初めてなんです。こんなふうに誰かを好きになったのも、誰かと手をつないで歩くのも……全部、初めて」

 俺は、胸が締め付けられた。涼子の人生の「初めて」を、俺が奪ってしまっていいのか。だが、もう後戻りはできなかった。

 その夜、家に帰ると、真理がリビングでテレビを見ていた。俺は、何もなかったように隣に座った。だが、真理はふいにテレビを消し、俺の方を向いた。

 「ねえ、何か隠してるよね?長くいるんだからわかるの」 俺は、言葉を失った。真理は、静かに続けた。

 「でも、あなたが本当に苦しんでいるなら、私は無理に聞かない。ただ……丈夫さんが幸せなら、それでいいのよ」

 その言葉に、胸が熱くなった。真理は、すべてを見抜いていたのかもしれない。

 翌日、俺は涼子に会いに行った。彼女は、いつものように図書館の窓際に座っていた。俺を見ると、少しだけほっとしたような表情を浮かべた。

 「丈夫さん……」

 「今日は……君に伝えたいことがあって来たんだ」 俺は、しばらく言葉を探した。だが、うまく言葉にならなかった。

 「俺は、君のことが好きだ。ずっと悩んでた。君には、もっとふさわしい人がいるんじゃないかって……」 涼子は、首を横に振った。

 「あなた以外無理なんです。丈夫さんだから、私は……」涼子の目に、涙が浮かんでいた。

 「丈夫さんと一緒にいたい。たとえ、どんな形でも……」俺は、涼子の手をしっかりと握った。もう、迷いはなかった。

 「あぁ。俺も、君と一緒にいたい」

 その日、俺たちは静かなホテルの一室で向かい合った。部屋の明かりは柔らかく、外の雨音が静かに響いていた。

 俺は、涼子の肩をそっと抱き寄せた。彼女は、少しだけ震えていたが、俺の胸に顔をうずめてきた。

 「丈夫さん……怖いけど、嬉しいです」俺は、彼女の髪を優しく撫でた。

 「大丈夫だよ。無理はしないから。」 涼子は、ゆっくりと顔を上げ、俺を見つめた。その瞳には、不安と期待、そして確かな決意が宿っていた。 触れただけのその瞬間に、身体の奥底から熱がこみ上げた。

再び重ねたとき、涼子の唇がわずかに開き、俺の熱を受け入れてくるのがわかった。

その柔らかさに、全身の神経が研ぎ澄まされていく。

指先が、彼女の肩からゆっくりと滑り落ち、薄いブラウスの布地の下で、その温もりに触れた。

涼子は、目を閉じ、小さく息をのんだ。彼女の手が、俺の背にまわる。ぬくもりが、重なっていく。

その夜、俺たちは言葉では表せない想いを、肌と鼓動で確かめ合った。

ただ静かに、深く、夜のしじまに溶けていくように。 ――この夜が、永遠に続けばいいのに。

 だが、現実は容赦なく朝を連れてくる。俺たちの関係は、もう後戻りできないところまで来てしまった。

 それでも、俺は涼子の手を離さなかった。彼女の温もりが、俺の罪を少しだけ赦してくれる気がした。

 夜が明ける頃、俺は静かに目を覚ました。隣には、まだ眠っている涼子がいた。彼女の寝顔は、どこか幼く、安らかだった。俺はそっと彼女の髪を撫でた。こんなにも誰かを愛おしいと思ったのは、いつ以来だろう。

 昨夜、俺たちはお互いの心の奥にそっと触れた。涼子の初めての震え、ためらい、そして勇気。俺はそのすべてを受け止めたつもりだった。彼女は何度も「丈夫さん、ありがとう」と小さな声でつぶやいた。俺はただ、彼女の手を離さずにいた。

 朝の光がカーテンの隙間から差し込み、部屋の空気を柔らかく染めていく。涼子がゆっくりと目を開け、俺の顔を見上げた。

 「おはようございます、丈夫さん」

 ふたりは、しばらく黙って見つめ合った。言葉はなくても、心が通じ合っている気がした。

 「私……丈夫さんと出会えて、本当によかったです」 涼子がそう言って微笑む。その笑顔は、昨日までの不安や迷いをすべて溶かしてくれるようだった。

 「俺もだよ。君と出会って、もう一度人生が始まった気がする」俺は、そう素直に言えた。嘘偽りのない気持ちだった。

 やがて、チェックアウトの時間が近づき、俺たちは静かに身支度を始めた。別れ際、涼子が俺の手をぎゅっと握った。

 「これからも……会ってくれますか?」

 「もちろんだよ。君がよければ、これからもずっと」涼子は、安心したように小さく頷いた。

 ホテルを出ると、春の光が街を包んでいた。俺たちは人目を避けるように並んで歩いたが、心の中は不思議なほど晴れやかだった。

 駅で別れるとき、涼子がふいに言った。

 「私……もう怖くありません。丈夫さんがいてくれるなら、これからの人生もきっと大丈夫です」俺は、彼女の肩をそっと抱き寄せた。

 彼女を見送ったあと、俺はゆっくりと家に帰った。玄関の扉を開けると、真理が台所で朝食の支度をしていた。俺は、静かに「ただいま」と言った。

 真理は振り返り、「おかえりなさい」と微笑んだ。その笑顔は、悲しさとどこかすべてを包み込むような優しさがあった。

 俺はコーヒーを一口飲み、深く息をついた。罪悪感は、まだ完全には消えない。だが、不思議と心は穏やかだった。

 真理と向き合いながら、俺は思った。人生には、いくつもの「初めて」がある。年齢を重ねても、それは決して遅すぎることはない。涼子との出会いが、俺に教えてくれたのは「もう一度、自分の心に正直に生きる」ということだった。

 その夜、真理がふいに言った。

 「帰ってきてくれてありがとう。何も言わない。だけど最後はここに帰ってきてね。」

真理はすべてを受け止めてくれるような目で俺を見ていた。

 夜、ベッドに入り、静かに目を閉じる。涼子の笑顔と、真理の優しさが胸に浮かぶ。俺は、これからも二人の女性を大切に思いながら、自分の人生を歩いていこうと決めた。

 春の終わりを告げる風が、街路樹の若葉を揺らしていた。あれから、俺と涼子は月に一度だけ会うようになった。お互いの生活を壊さないように、でも、心の奥に小さな灯を絶やさぬように。

 涼子は、以前よりも表情が柔らかくなった。会うたびに、少しずつ自分のことを話してくれるようになった。子どものころの思い出、好きな詩、将来の夢――。俺は、彼女の言葉に耳を傾けながら、彼女を見守ることに幸せを感じていた。

  涼子は、はにかみながら俺の手を握った。その手は、もうあの日のように震えていなかった。

 家に帰ると、真理がいつものように穏やかに迎えてくれる。俺は、以前よりも真理の存在を愛おしく感じるようになっていた。罪悪感は、完全に消えたわけではない。だが、真理の優しさと、涼子の純粋さのあいだで、俺の心は静かに満たされていた。

 ある晩、真理がふいに言った。

 「最近よく笑うようになったわね」

 「そうか?」

 「うん。前よりも…」 真理は、何も言わずに微笑んだ。その微笑みはやさしくも切ない表情だった。

 涼子と過ごす時間は、俺にとって人生の余白だった。だが、その余白に咲いた小さな花は、思いがけず俺の人生を豊かにしてくれた。痛みも、迷いも、すべてを受け入れた上で、なお人を好きになることの尊さを、俺は知った。

 涼子は、これからもきっと新しい世界を見せてくれるだろう。真理は、俺の帰る場所であり続けてくれるだろう。

 人生は、思っていたよりもずっと長い。春が過ぎ、夏が来て、秋が訪れても、俺の心にはあの夜の光が、ずっと灯り続けている。

 ――人生に遅すぎる初体験などない。

 そう胸を張って言える自分が、今ここにいる。

 新しい季節の風を感じながら、俺は静かに歩き出した。

 人生の余白に咲く花を、これからも大切に育てていこうと思う。

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