
俺には妻がいる。結婚して数年が経ち、普通の生活を送っていた。どこにでもあるような、平凡な日常。しかし、ある日を境に、俺の人生は大きく変わることになる。
義母、妻の母親である彼女は、いつも家に遊びに来るたびに笑顔で迎えてくれる。穏やかで優しく、誰からも愛されるタイプの女性だ。初めて会った時も、すぐに打ち解けることができたし、その後も何度も顔を合わせるうちに、俺も気を使わずに接するようになっていった。
だが、あの日から何かが変わった。普通なら気にも留めないようなことが、急に気になり始めた。たとえば、義母が俺に向ける視線。最初は何も感じなかったが、だんだんその視線に違和感を覚えるようになった。微妙に長く目を合わせることが増え、他の人がいないときには、その視線にほんのりとした温かさを感じるようになった。言葉にできない、ただの親子の関係ではないような気がした。
その視線が、やけに胸に刺さるように感じた。最初はその感情に気づかないフリをしていた。義母だ、親としての感情に違いはない。そう自分に言い聞かせて、無理に忘れようとしていた。
だが、あの日。俺が仕事から帰ると、義母が家に一人でいた。妻は友人の家に遊びに行っていると連絡をもらっていたので、俺は何気なくリビングに入った。義母は普段と変わらぬ笑顔で迎えてくれる。ただ、その笑顔が少しだけ深く、何かを含んだように見えた。彼女が立ち上がり、俺に近づいてきたその瞬間、俺の心臓は一瞬、止まったような気がした。
「疲れてるでしょ?少し休んで。」義母はそう言って、俺にコーヒーを差し出した。その手が、俺の手に触れた瞬間、全身に電流が走ったのを感じた。
その瞬間から、俺の中で何かが変わった。これが一線を越える瞬間だと、すぐに分かった。しかし、頭で分かっていても、心がその思いに抗うことはできなかった。
俺は無意識に義母を見つめ、その目を離すことができなくなった。そして、次の瞬間には、彼女もまた、俺を見つめ返していた。その目には、何か深い意味が込められているように感じられた。
その後の数秒間、言葉を交わすことなく、ただお互いに見つめ合うだけだった。
「お義母さん……」
「啓太くん…」その中で、俺は理解した。もう後戻りはできない…と。
俺と義母の関係は、最初から特別だったわけではない。ただの家族関係に過ぎなかった。
しかし、少しずつ、その距離が微妙に縮まっていったのだ。初めて義母と会った時、俺は少し緊張していた。
妻の母親だ、やっぱり気を使うものだ。ただ義母は思ったよりもフレンドリーで、すぐにその緊張は解けた。
「大丈夫よ、楽にしていて。」義母はそう言って、笑顔を見せた。
義父は妻が15歳のときに病気で亡くなったそうだ。それ以来女手ひとつで妻を育ててきたらしい。
強い女性かと思いきや義母は普通の母親のように優しく、心の中でどこか安心したのを覚えている。
それからは、義母の家に行く度に、いつも通りに過ごしていた。最初は一緒に食事をしたり、少しお茶を飲んだりするだけだったが、やがてそれが日常的なことになった。
義母は料理が得意だった。その日も、俺が仕事から帰ると、すでに彼女がキッチンで何かを作っていた。
最初は、ただの会話の中で「これ、美味しいわよ」と言いながら世間話をしたりしていたが、いつしか義母の料理を食べる時間が楽しみになっていた。
ある日のことだ。妻が急遽出張に出かけることになり、義母がひとりで俺を迎えてくれることになった。
普段なら、妻と一緒に過ごす時間が当たり前だったが、その日ばかりは何だか違っていた。
義母は料理を振る舞い、俺と二人きりで食卓を囲んだ。いつもなら、妻がいるときのように家族としての雰囲気が漂っていたが、この時は何故か二人だけの空間が妙に気まずかった。
「これ、すごく美味しいですね。」
「ありがとう…」その時、何となく義母の視線が長く感じられ、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。
「たくさん食べてね。」義母がそう言いながら、俺の皿にもう一度料理を盛り付けた。
その手が、俺の手に触れた瞬間、思わず息が詰まるような感覚を覚えた。
義母は、気づかない様子で手を引っ込めたが、その触れた感覚が、俺の中に強烈な印象を残した。
その夜、俺は寝室でベッドに入ってから、義母との食事を反芻していた。
彼女の手のひらの温もり、視線のやり取り、そして、あの微妙な空気感。
それが、少しずつ俺の中で何かを引き起こしているのを感じていた。
それから数日後、その日も食事を共にし、雑談を交わして過ごした。しかし、以前とは違っていたのは、会話の合間に何度もお互いの目が合うようになった。
「今日のおかずは、どう?おいしい?」と義母が話しかけてきた時、その目が俺をじっと見つめていた。まるで何かを伝えたいかのように。そして、俺も無意識のうちにその目を見つめ返していた。
そんな時義母が俺の変化を指摘した。
「啓太くん、最近少し痩せたわね。何かしたの?」
「え?あ、あぁ確かに最近は少し痩せたかもしれませんね。原因は多忙ですかね…」
まるで、俺が少しでも変わったことを気にかけているような、その真剣な眼差し。俺はその眼差しに、つい見入ってしまった。
あの微笑みは、俺にはただの親の微笑みではなく、少し違う意味を含んでいるように感じた。彼女が見せた笑顔に、俺は抗うことができなかった。
この瞬間、俺は間違いなく義母に対して持ってはいけない感情を持ってしまった…
その後、義母と過ごす時間はますます増えていった。理由は会社が繁忙期らしく妻の出張が増えたことだ。最初は、何気ない会話が主だったが、徐々に二人きりで過ごす時間が多くなり、意識し始める瞬間が増えていった。
ある日、義母と一緒に料理をしていた時のことだった。俺が鍋の中身をかき混ぜていると、義母が後ろから優しく声をかけてきた。
「ちょっと、見せてくれる?」そう言われて、俺は驚きながらも体を少し振り返ると、義母はやや不安げな表情を浮かべながら、俺の肩越しに鍋を覗き込んでいた。その時、義母の顔が近くて、その温もりが背中に伝わった。微かな息遣いが、耳元で感じられた。俺の心臓が急に速くなるのを感じ、思わず目を逸らそうとしたが、なぜかその場から動けなかった。
「熱いから気をつけてね。」優しいトーン、吐息、そして色香…
それを意識してしまった瞬間、俺の胸はさらに高まった。その後、義母は何事もなかったかのように振る舞って料理を続けていたが、俺は心動かされていた。普通の家族の関係とは思えない、どこか違う感情が芽生えてきている自分に気づく。
その日から、俺は義母とのやり取りにますます気を使うようになった。どんな些細な仕草でも、彼女の反応に敏感になり意識してしまう自分がいた。しかし、彼女は相変わらず穏やかで、特に違和感を抱かせることなく振る舞っていた。それが、逆に俺を混乱させていた。
次に気づいたのは、義母がわざと俺を見つめる瞬間が増えたことだった。何気ない会話の中で、目が合うことが多くなり、そのたびに心がざわつくのを感じていた。義母の視線に含まれる何かが、徐々に普通の親子のものではないように感じられていた。
ある夜、俺が帰宅すると、義母がひとりでソファに座ってテレビを見ていた。いつもなら、家族で過ごしている時間だが、この夜はなぜかふたりきりだった。妻が出張中ということもあり、少し不安げな空気が漂っていた。
「おかえりなさい。」義母は、笑顔で俺を迎えてくれた。その微笑みに、またしても胸が高鳴るのを感じる。
「ありがとうございます。」俺は少し無理に笑顔を作りながら返事をした。
そのまま、テレビを見ている義母の隣に座ると、彼女は自然に体を寄せてきた。俺はその距離感に驚きながらも、どこか心地よさを感じていた。義母の体温が、ほんのりと感じられるその空間が、俺を徐々に包み込んでいった。
「ねぇ、最近、何か気になることでもあるの?」義母が穏やかな声で尋ねてきた。その声に、どこか沈んだ意味を感じた。彼女が言うその言葉の裏には、何か隠された思いがあるような気がした。
俺はしばらく黙って考えてから、答えた。「最近、ちょっと疲れてるんですよね。でも、お義母さんがいろいろしてくれるから助かってます。」
義母は微笑みながら、優しく頷いた。
「そう…。私は、あなたがどんな気持ちでも受け入れるわよ。」
「えっ、どういう意味ですか…?」すると義母は俺の背後からハグをした。
「お、お義母さん…?」
「ごめんなさい…私長らく男性と一緒に暮らすっていうことがなかったものだから、
啓太くんと少しの間だけだったけど一緒に生活していたら、何か不思議な気持ちになっちゃって…」
その時の義母の表情は艶があって、母親の表情ではなく女の顔をしていた。越えてはいけない一線だってことはわかっている。
でもこの顔を見て俺は理性を抑えることなんてできなかった。
「お義母さん…いいんですね?」
「えぇ…それより啓太くんの気持ちはどうなの?」
「え?」
「私は正直な気持ちを伝えたけど、啓太くんはどうなの?」その時俺は自分の気持ちを口にするのが怖かった。
これを言ってしまったらどうなってしまうのだろうかと思ったからだ。でも関係なかった。
「俺も…お義母さんのことが気になっていました…むしろ早くお義母さんと関係を持ちたかった…」
「啓太くん…」
「だって魅力的すぎるんですよ…」すると義母は微笑んでいた。俺が正直な気持ちを言い過ぎたからだ。
「啓太くんはやっぱり面白いね。私はいつでもいいよ…」
「お義母さん…」そして俺と義母はこの日一線を越えたのだった。最高だった。持ってはいけない関係だってことはわかってる。ましてや妻の母親だ。普通の関係じゃない。だからこの日だけ、俺は義母を一晩関係を持った。それからまた日常が始まった。あれからありがたいことだが、義母は普通に接してくれている。妻と俺もまたいつも通りの関係…のはずだった。
しかしそれはいきなり訪れた。
ある日の仕事帰りのことだった。
会社の外に出ると20代後半くらいの女性が俺に声を掛けてきた。
「啓太さん…で合ってますよね?」
「は、はいそうですが…あなたは…?」こんな若い女性の知り合いはいないと思ったが、素性を明かされた時俺は言葉を失った。
「奥様が私の夫と浮気しています。最近…出張が増えていたり外出が増えたりとかありませんでしたか?」
俺は黙って頷いた。心当たりが大いにあったからだ。それ以降のことはあまり覚えていない。彼女があらゆる証拠を渡してくれたことくらいはぼんやり覚えていた。
あとは忘れた…。それから俺は呆然としたまま帰宅してこの事実を義母に伝えた。義母は涙して俺に謝罪した。
「ごめんなさい啓太くん……」
俺は何も答えられなかった。義母だってショックのはずだ。やりきれない気持ちもある一方で、俺も後ろめたいことがあった。それは義母との関係だ。俺たちも既に越えてはならない一線を越えてしまっている。妻が浮気したのが先だとしても、だからと言ってこちらが浮気して良い理由にはならない。正直聞いた時にほっとしていた自分もいた。
そう思ったら妻を全面的に責めることはできなかった。だから俺たちは隠すことを選択した。
「お義母さん…俺達の関係は誰にも話していませんよね?」
「え?は、はい…」
「だったらこのまま隠し通しましょう。」
「ど、どうして?」
「傷ついた俺を心配してお義母さんが寄り添ってくれるうちに、俺達の関係が深まったってことにすれば自然じゃないですか?」
「け、啓太くん!?それ、本気で言ってるの?」
「だってそれしかないでしょう!?」
妻の浮気を聞いたからか、俺も感情的になっていた。義母には言えなかったが俺はとっくに妻への愛情など冷めていた。だからむしろ好都合だと本気で思っていた。
そして数日後、妻に浮気を問い詰めた…
「お前、浮気してるんだよな?出張なんて嘘いてだんだね…」
「そ、そんなことないわよ!」
「言い訳は良いよ。相手の奥さんが俺のところに来たんだ。証拠付きで」そう言って俺は証拠の数々を目の前に見せた。妻は勢いを失い固まった。それから離婚の方向へ話が進むのに時間は掛からなかった。
これで義母と一緒に過ごすことができる…
離婚する時、妻は涙を流しながら謝罪していた。最後の最後で罪悪感を抱いたようだ。
それを見たら俺だって少なからず罪悪感を抱く。自分も義母と関係を持った。だがこれをカミングアウトすれば妻と義母の関係は壊れることになる。この秘密は墓場まで持っていくつもりだ。それから離婚して落ち着いた時、俺は義母と二人で会うことにした。
「お義母さん、ようやく自由になりました。これでいつでも一緒に過ごせますよ。」
妻の罪悪感を打ち消すには新しい生活を始めて義母との日々で埋め尽くすしかない。俺はそう思っていたんだが、そう思っていたのは俺だけだったようだ。義母の暗い表情から、とても今から一緒に住むという言葉が出てくるとは思えなかった。案の定義母はこう言ったんだ…
「啓太くん…私たちも終わりよ」
「はい……?」時が止まったようだった。なんで…?これからだって時にどうして終わりにしようなんて言うのか全く理解できなかった。
「どうしてですか…?だったら俺、何のために離婚したんですか?」
「ごめんなさい」
「謝ってもらっても意味ないんですよ!!お義母さんと一緒にいたいのに…」
「私もそのつもりだった…」
「だったらどうして!?」義母は深いため息をついた後ゆっくり口を開いた。
「娘を捨ててまで先の人生を、私は進めない…」
俺はその時に言葉を失ってしまった。母親だけ幸せになって娘を放っておくことなんてできない。義母らしい答えだった。そうだ。俺はこの人のこの優しさに惹かれたんだ。
だったら今の答えじゃなかったら本来のこの人じゃない。俺はその時ようやく気づいた。
「お義母さん…俺だけ突っ走ってたみたいですね…すみませんでした…」
「啓太くん、私は今でもあなたを愛してるの。でも…」
「わかっています。でも安心しました。」
「え?」
「自分の幸せのために娘を見捨てるような母親ではなかったことに…」
その時義母は涙を流して泣いていた。そしてずっと謝罪の言葉を口にしていた。これで良かった。最初から結ばれちゃいけない関係だったんだ。でも…いざフラレると何だか胸の奥にポッカリと穴が開いたようでやるせない気持ちになった。
だけどきっとあの時義母が俺を選んでいたら、俺は後々ガッカリしていたかもしれない。義母の本来の性格は優しさだ。その優しさを最後に見れただけで俺は幸せな時間を過ごすことが出来たのかもしれない。
あれから義母とは連絡を取っていないが、先日街で見かけた。
妻と義母、二人で仲良く夕食の買い物をしていた。義母は母親としてこれからの人生を生きていくのだろう。俺も覚悟を決めて人生を生きようと思う…