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義父との旋律

淡い光が窓から差し込む小さな和室で、静かに三味線の音が響く。
直子は、その柔らかな音色に心を委ねながら、義父・健三の指導の下、一心不乱に弾き続ける。
彼女にとって、この時間だけが現実からの逃避であり、唯一の慰めだった。
外では夫が夜通し遊び歩く中、直子は健三の三味線の音に包まれ、少しずつ心の傷を癒やしていた。

健三は、若くして妻を亡くし、男手一つで息子を育て上げた。
その息子が今や直子の夫であり、彼女を精神的に追い詰める存在になってしまっていた。
しかし、健三は息子の行いに心を痛めつつも、直子に対しては、優しく、時には父親のような温かさで接してきた。

ある日、直子は健三と共に三味線を練習している最中、突然の弦の切れにより指を深く切ってしまう。
痛みと驚きで顔を歪める直子に、健三は慌てて応急処置を施す。
その優しさと心配する様子に、直子はこれまでに感じたことのない種類の戸惑いを覚えた。
夫からは受けたことのない、純粋な優しさと心遣いに心が揺れ動く。
その瞬間、直子は自分の中に健三への特別な感情が芽生えていることに気づく。

夫が家を空ける夜が増えるにつれ、直子と健三の間には、言葉以上の深い絆が生まれていった。
三味線の練習を通じて、二人は多くの時間を共有し、心を通わせるようになる。
しかし、直子には夫への罪悪感と、義父への禁断の感情との間で葛藤が生じ始めていた。
健三もまた、息子の妻である直子に対して抱き始めた感情の正体に戸惑いを隠せないでいた。

ある冬の夜、二人だけで過ごす三味線の練習後、健三はついに心の内を明かす。
「直子さん、私たち、これ以上は…」声は震え、未完の言葉が空気を重くする。
直子は健三の言葉の意味を理解しながらも、返す言葉が見つからない。
二人の間に流れる沈黙は、言葉にならない感情の深さを物語っていた。

その夜、直子は自分自身に問うた。
「私たちのこれからはどうなるのだろう?」夫との関係、健三への思い、そして自分自身の幸せについて深く考え込む。
この戸惑いと葛藤の中で、直子は徐々に自分の本当の気持ちと向き合う勇気を見つけ始めていた。

健三との関係が、直子にとってただの逃避ではなく、自分自身を見つめ直し、成長するきっかけとなっていく。そして、この禁断の感情が彼女に教えてくれたのは、自分の幸せを自分で掴む強さと、人生における新たな希望だった。

これからのことはわからない。
ただ、直子は決断した。
「夫に消えてもらうしか・・・」
直子の目は力が籠った目をしていた。

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