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夫がいない間に、幼馴染でもある夫の兄が

いつまでも若く純愛

夫の拓海が2週間の海外出張に出ることが決まったとき、私の胸の奥は何故かざわついた。これまでも何度か出張はあったのに、今回は何かが違う気がしていた。
「心配だから芽衣のこと、兄貴に頼んでおいたから。夜、家に飯食いに来てくれるってさ」
拓海はそんな風に、さらりと言った。両親が亡くなってるから家に私一人になるのを気遣ってくれているのはありがたいけど、わざわざ来てもらうには申し訳ない気持ちを感じていた。義兄・浩一郎さんにわざわざ顔を出してもうらうのはかなり気が引ける。けれど、拓海が心配するのもわかる。2週間も家を空けるのは初めてだから、本当に心配なんだろう。
「浩一郎さん、忙しいのに無理させちゃって……ごめんなさい」
「拓海は心配性だからな。まあ遠慮しなくて良いよ。」
そう言って浩一郎さんは笑ったが、その笑顔がいつもより少し遠く感じた。
「芽衣、大丈夫か? 拓海がいない間、なんかあったら遠慮なく言えよ」
拓海が出発して数日後、浩一郎さんは夜になると家に顔を出してくれた。畑仕事を終えて、忙しい中をわざわざ時間を作ってくれているのが伝わってくる。彼の言葉は優しかったけど、どこか他人行儀で、私はその距離感に違和感を覚えていた。

私と拓海、そして浩一郎さんは実家が近所で、いわゆる幼馴染として長い付き合いがあった。私にとっては「兄」のような存在で、彼も私のことを「妹」扱いしていた。拓海に嫁いだ後も、その関係は変わらない――と思っていた。
「何かあったら、すぐ言うから大丈夫よ」
私が笑顔でそう返すと、浩一郎さんは少しホッとした表情で微笑んだ。食卓を囲む時間は、妙に穏やかで、でもどこか落ち着かない。この家の空気がそうさせているのか、私自身が変わったのか、その時はわからなかった。

そして、ある夜のことだった。
「芽衣、悪い……飲んでたら遅くなった」
浩一郎さんが、いつもより遅い時間に家に来た。顔が赤く、ふらつく様子から見て、明らかに飲みすぎているのがわかった。彼がこんな風に酔っ払うのは珍しい。
「大丈夫ですか? 水持ってきますね」

私がキッチンに立ち、水を用意して戻ると、浩一郎さんはソファに腰を落として、少しぼんやりとした表情で座っていた。
「芽衣……ずっと、俺……お前のことが、好きだったんだ」

突然のその言葉に、全身が固まった。声が出ない。まさか、浩一郎さんがそんな風に私を見ていたなんて、想像もしていなかった。あまりにも突然すぎて、頭が真っ白になる。
「……浩一郎さん、酔ってますよね?」
震える声で何とか返すが、彼の目は真剣だった。酔っているからこそ、心に押し込めてきた感情が口から漏れてしまったのだろう。

「……いや、違う。酔ってるけど、この気持ちはずっと変わらない。拓海のこともあるし、ずっと言えなかったけど……ずっと、ずっと俺は、お前が好きだった」

彼の言葉に、私は胸が締めつけられた。どうして今、こんなことを言うのだろう。もっと早くに言われても、私はきっと同じ答えしか出せない。でも、今この瞬間に言われることで、心のどこかが揺らいでしまう気がした。
「ごめんなさい……浩一郎さん。気づけなくて、本当にごめんなさい。私……その気持ちに応えられない」
私の目から自然と涙がこぼれた。申し訳なさと戸惑いで、胸がいっぱいだった。でも、彼はそんな私を困ったように見て、そっと頭を撫でた。
「……泣くなよ。俺だって、分かってた。拓海の嫁になったお前が、俺のところに来るわけがないのは。でも……一度だけ言いたかったんだ。これで未練も断ち切れる」

その言葉に、私はますます涙が止まらなくなった。浩一郎さんは、静かに私を見守りながら、穏やかに微笑んだ。
「……これからも、俺は兄としてお前を守るよ。それだけで、十分だ」
その笑顔が、少しだけ私を救ってくれた気がした。
数日後、拓海が出張から帰ってきた。いつものように明るく優しい笑顔を見せる彼は、私にとって変わらない存在だ。けれど、浩一郎さんのことが胸に残っていて、なんとなく居心地が悪かった。
そんな時、突然の知らせが届いた。浩一郎さんが急遽、海外勤務になるというのだ。夫の提案で、私たちは浩一郎さんのお別れ会を開いた。
ただ、拓海は仕事の疲れからか、早々に酔いつぶれ、ソファで寝息を立て始めた。私は浩一郎さんと二人きりで話すことになった。
「もっと早くに……打ち明けてたら、何か変わってたかな」
浩一郎さんがぽつりと呟いた。その言葉に、私は静かに首を振る。
「ごめんなさい。それでも、私は拓海を選んでいたと思います」
その言葉を聞いて、彼は少し寂しげに微笑んだ。
「……そっか。ありがとう。ちゃんと、そう言ってくれて」
彼の声はどこか遠くに響くようだった。だけど、浩一郎さんはすぐにいつもの調子に戻り、軽い口調で言った。
「数年後、俺が戻ってきたら、金髪の外国人彼女でも連れてくるよ。だから、その時はちゃんと祝ってくれよな」
そう言って照れくさそうに笑い、彼は静かに去っていった。その背中が遠ざかるのを見つめながら、私は何かが終わったのだと感じた。彼の中で未練が断ち切れたのか、それともまだどこかに残っているのか、それはもう確かめることもないのだろう。

夜も更け、私はソファで眠っている拓海にそっと近づいた。彼は目を閉じ、穏やかな寝顔をしている。私は小さく声をかけた。
「ねえ、拓海……起きてるでしょ?」
しばらくして、拓海がうっすらと目を開けた。彼は眠そうな目で私を見ながら、ぼんやりとした声で言った。
「お前らが……そんな話してるから、起きられなかったんだよ」
私たちは顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。そして私は、彼にそっと抱きついた。拓海は驚いた様子だったが、すぐに私の背中を力強く抱きしめ返してくれた。その腕の温かさが、心の中の不安や迷いを消し去ってくれるようだった。
「良かった……俺、安心したよ」
拓海はそう言って、少し強く私を抱きしめる。

「私のこと幸せにしてね…」
「芽衣が兄貴の方に行かなくて、本当によかったぁ」その言葉に、私はさらに彼の胸に顔を埋めた。拓海の温もりが、これからも変わらない未来を約束してくれるようだった。

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