叔母

達也はその夕暮れも、悦子さんの家へ向かっていた。彼女の家で過ごす夕食の時間は、達也にとって日々の潤いであり、心の支えだった。小さい頃から悦子さんは、達也にとって憧れの女性であり、姉のような存在だった。彼女の料理は、彼の好みを反映しており、その一皿一皿から伝わる愛情が達也には何よりも嬉しかった。

悦子さんは達也からみて４歳しか離れていないが、叔母に当たる。子どもの頃から、彼は悦子さんに惹かれていたが、叔母という立場のため、心を封鎖して接してきた。悦子さんはいつも達也を可愛がってくれるが、それは家族としての深い愛情から来るものだと達也は考えていた。その事実が彼の心の苦しみを倍増させていた。
「こんばんは」と彼女の家に到着すると、悦子さんはいつものように温かい笑顔で迎えてくれる。達也はその笑顔を見るたびに、叔母という関係を超えた特別な感情を抱えている自分に気づき、心の中で戸惑っていた。彼は彼女への深い慕情を隠しながらも、「こんなに美味しいごはんを毎日食べられるなら、もうここに住んじゃおうかな」と軽く言ってみる。その言葉には、ただの気遣い以上のものが込められていたが、達也自身もその感情の正体について躊躇していた。

食事中、達也は仕事や趣味の話で場を和ませつつ、内心では悦子さんへの思いやこれからの関係について悩んでいた。彼にとって、悦子さんの幸せが最優先だったが、自分の存在が彼女の人生にとってプラスになるのか、それとも負担になるのか、答えを出せずにいた。
夕食後のソファでのひと時、悦子さんの子供時代の話に耳を傾ける中で、達也は彼女が変わらず持ち続ける優しさや、共に過ごす時間の尊さを改めて感じていた。しかし、彼は自分の複雑な感情を悦子さんに見せることができず、その距離感に苦しんでいた。

達也の心の中には、悦子さんとの関係をどう築いていくべきか、自分の感情にどう向き合うべきかという葛藤が渦巻いていた。彼女の存在は、単なる叔母を超えた、かけがえのないものであり、達也は自分自身の成長のため、この葛藤を乗り越えようとしていた。

夜が更けた時、「悦子さん、いつも美味しいごはんをありがとう。また来るね」と達也が感謝を込めて言うと、悦子さんの「またね」という返答は、彼にとって何よりの励ましとなった。その瞬間、達也は悦子さんとの関係が特別な絆で結ばれていることを改めて感じ、自分の感情と真摯に向き合い、成長していくことを心に決めた。この戸惑いが、彼自身と悦子さんとの関係を深めるための大切な一歩になると信じていた。夜が更けていく中、達也は深く息を吐きながら、自分の心と向き合った。これから先、一緒になることはかなわない。でも、だからといって彼女との今を大切にしたい。そう心に決めた達也は、ただ一緒に過ごせる時間を願うだけだった。