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初めての不倫

いつまでも若く禁断背徳

夫の隣で眠る夜、私はいつも孤独だった。肌が触れ合うことも、愛を感じることもない。こんなはずじゃなかった。結婚当初、あんなに私を求めてくれた夫の手は今、私から遠ざかるばかりだ。日々の些細な摩擦とすれ違いで愛は形を変え、いまでは家族という枠だけが私たちを繋いでいる。それでも私は、ただ誰かに求められたかった。あの日、山田さんの唇が私に触れた瞬間、私の人生は静かに変わり始めた。

私は美和。アラフォーと呼ばれる年齢に差し掛かり、鏡に映る自分に少しずつ年齢を感じるようになった。かつてはハリのあった肌も、子育てに追われる日々の中で少しずつ衰え始めている。長男は大学へ、次男は高校生になり、夫は歳の離れた会社員。子供たちが成長して手が離れた分、私は家計を助けるために地元の小さなカフェでパートを始めた。

カフェの店長、山田さんは私より少し年上の40代半ば。彼も家庭を持ち、どこにでもいる普通の男性だ。背も高くなく、特別に目立つわけではないが、優しさが滲む笑顔と、気さくに誰とでも話せるその空気感に私は少しずつ惹かれていった。誰かと話すとき、必ず相手の目を見て笑うその仕草。忙しい日にはさりげなくフォローしてくれる気遣い。いつの間にか、山田さんとの何気ない会話やちょっとした冗談が私の日常の楽しみになっていた。

そんなある日、休憩室で山田さんと二人きりになった。なんとなくその場のノリで、私はポッキーを咥え、「ポッキーゲームでもする?」と冗談半分で茶化してみた。軽い遊びのつもりだった。だが、山田さんは一瞬も迷わずポッキーを口にくわえ、まるで本気で挑むように私に近づいてきた。お互いの顔がぐっと近づく。心臓の音が耳に響くほど大きくなり、私の頭は真っ白になった。気づけば、彼の唇が私の唇に触れていた。

一瞬の出来事だった。でもその瞬間、私の中で何かが音を立てて崩れた。夫との関係で失われた感覚が、山田さんとのキスで一気に蘇ったのだ。胸の高鳴り、触れ合う温もり、長い間忘れていたドキドキ。これまでの抑え込んでいた感情が一気に溢れ出し、私はその感覚に取り憑かれてしまった。

翌日から、山田さんは私をからかうように距離を詰めてきた。軽く肩に触れたり、耳元で小さな冗談を囁いたり、時には休憩中にこっそりと唇を重ねてきたりした。仕事中にハラハラすることばかりして、私の反応を楽しんでいるようだった。嫌だと思いながらも、私は心のどこかでハラハラドキドキする感覚を求めている自分に気づいていた。山田さんとの時間が増えるたびに、夫との冷めきった関係がより色あせて見えた。

夫は昔、夜が強い男だった。何度も求められる夜が当たり前で、その時は「愛されている」という実感があったから、彼の辛辣な言葉も我慢できた。だけど、今は違う。レスの毎日は、私にとってただの空虚だった。夫のモラハラ発言は日に日に増し、私の心を蝕んでいった。山田さんとの関係は不道徳で危険だと分かっていたけれど、それでも夫の苛立ちや攻撃的な言葉から逃れ、ほんの一瞬でも心が休まる時間が欲しかった。

カフェの定休日、山田さんの提案で私たちは少し遠くのカフェ巡りを始めた。視察という名目のデート。新しい店の雰囲気や、そこで交わす何気ない会話が楽しくて、私はその時間を待ち遠しく思うようになった。でも、次第にそれだけでは足りなくなった。気づけば、私たちは毎週の休みはホテルにいた。「これで最後にしよう」と何度も自分に言い聞かせながらも、彼に触れられるたびに、全ての理性が崩れ去った。背徳感と快感の狭間で、私はただ彼に身を委ねた。

ホテルの部屋は薄暗く、かすかに香るアロマの匂いが漂っていた。山田さんがそっと私の手を握ると、その熱が体中に伝わり、心が溶けるようだった。触れるたびに、夫の元では決して感じられなかった幸福感が押し寄せてきた。彼の腕の中にいるときだけは、私は自分の年齢も、家庭のことも、すべてを忘れさせてくれた。彼との時間が私にとって唯一の逃避場所となり、どこかで「これが現実なのか」とさえ思うようになっていた。

罪悪感がなかったわけではない。夫のことを考えるたびに胸が痛んだし、子供たちの無垢な笑顔を見るたびに心が締め付けられた。それでも、山田さんとの時間が私にとっては何よりも大切だった。まるで沼に足を取られたような感覚で、そこから抜け出す気持ちは微塵も湧かなかった。

「これ以上関係を続けるのはやめよう」――そう何度も思った。でも、山田さんの優しい言葉や微笑みに触れると、そんな決意はすぐに揺らいでしまった。私は自分が何をしているのか分かっていたし、いずれ罰が当たることも覚悟していた。だけど、その罰が訪れる日まで、この甘美な罪悪感に浸っていたかった。まるで、自らの底に沈んでいくように、私は彼を求め続けた。

山田さんとの時間は、日常の虚しさを忘れさせてくれる唯一のものだった。仕事中はバレたら困るようないたずらを仕掛けてくる。毎回ハラハラドキドキさせられる。そして休みの日は思う存分甘えさせてくれる。完全に吊り橋効果のようになってしまっているのだろうか。

夫との関係の冷たさ、家族の役割だけをこなす日々の中で失われた私自身の心を、彼は少しずつ取り戻させてくれたのだ。ホテルのベッドで彼に抱かれるとき、何度も心の中で「これで最後にしよう」と思う。でも、彼の手が私に触れた瞬間、全ての決意は霧散してしまうのだった。

この関係がいつか終わりを迎えることは分かっている。それでも、山田さんの笑顔を見ていると、その終わりを考えるのが怖くなる。今日もまた彼の名前を呼びながら、私はその沼に足を踏み入れていく。いつかこの選択が私をどこに連れていくのか、答えが出る日はまだ来ない。でも今だけは、彼との甘い時間に囚われ続けていたい。そう思う自分がいるのだ。

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