俺の名前は杉本直哉、38歳だ。一回り年の離れた妻の芽衣は26歳で看護師をしている。結婚してまだ半年ほどの新婚だが、芽衣の不規則な勤務シフトのせいで、家で顔を合わせる時間は限られている。それでも、穏やかで明るい芽衣の存在は、俺にとってかけがえのないものだった。
そんなある日、芽衣が思いがけない提案をしてきた。
「お母さんと同居してもいい?」彼女の母、早苗さんは二十歳の時に芽衣を生んだためまだ46歳。俺よりも年が近い。若い頃に夫を亡くし、それ以来女手一つで芽衣を育ててきた女性だ。家族として支え合って生きてきた彼女たちの絆の深さを知っていたから、俺は戸惑いながらもその提案を受け入れることにした。
「あぁ、もちろん、いいよ。」
そう答えた俺の心には、少しの不安と期待が入り混じっていた。
早苗さんが家に来た日から家の雰囲気は一変した。落ち着いた物腰、丁寧な仕草、そして控えめな微笑み。その存在感は、俺たちの生活に新たな風を吹き込んだ。食事や家事を手伝ってくれるだけでなく、芽衣がいない時間には俺の話し相手にもなってくれた。最初はただの世間話だった。仕事のこと、日常の些細な出来事。それが次第に深い話題へと移り変わり、年齢が近い分話題も合い俺は自分でも気づかないうちに彼女に心を開いていた。彼女は、俺の悩みや葛藤に対してまるで長年の友人のように耳を傾けてくれた。芽衣には言えないようなことも、なぜか早苗さんには打ち明けられる。それは、彼女が常に冷静で包み込むような優しさを持っていたからだ。
ある日、仕事のストレスについて話した際、早苗さんが「直哉さんは頑張りすぎるところがあるのよ」と言いながら肩を叩いてくれた。その小さな仕草に、俺は不思議と心が軽くなった。彼女は自分の経験からくるアドバイスをくれることも多く、俺はそれを心強く感じていた。だが、その距離感が徐々に変わり始めたのは、ある夜の出来事がきっかけだった。
その夜、久しぶりの芽衣との行為を早苗さんに見られてしまったのだ。寝室のドアをきちんと閉めたつもりだったが、少しだけ開いていたのだろう。視線を感じて振り返ると、ドアの隙間から早苗さんの影が見えた。翌朝、早苗さんが恥ずかしそうに俺に声をかけてきた。
「昨夜のことなんだけど……うまくできていないの?」
「え?み、見てたんですか?」その一言に、俺は言葉を失った。否定しようとしたが、彼女の真剣な眼差しに圧倒され、結局芽衣との関係でうまくいかない部分を打ち明けてしまった。
「そう…なのね。」芽衣は何も言ってないかもしれないけど、たぶんあなたが初めての人なの。だからもっと時間をかけて優しくしてあげてね。そう、俺たちはいつの間にか早苗さんと性の悩みまで話をするようになっていた。
ある金曜日の夜、毎週金曜日は芽衣が夜勤の日ということもあり、金曜日は早苗さんと晩酌をする日というのがいつもの日課になっていた。ただ、この日はいつもと違った。
「もし……よければ、私が教えてあげようか?」
「えええ?」
彼女のその言葉に耳を疑い、夜も遅いというのに俺は思わず大きな声を上げてしまった。酔った勢いもあったのだろう。挑発的な微笑みを浮かべる早苗さんを前に、俺の理性は猛烈に揺らいだ。どうしてそんなことを提案してきたのか、その背景を知ることもできないまま、彼女がこちらに迫ってくる。駄目だ駄目だと思いつつもその言葉が出ない。全身に血液が回り体中が熱く手足が震えて力が入らない。そして……。俺は彼女の言葉に抗うことができなかった。
それ以来、芽衣が夜勤で不在になる毎週金曜日、俺と早苗さんは秘密の時間を共有するようになった。最初はもちろん罪悪感に苛まれた。だが、彼女との会話や穏やかな時間は心地よく、俺はその関係を断ち切ることが出来なかった。早苗さんはいつも冷静で、彼女自身が抱える葛藤を決して表には出さなかった。ただ一度だけ、彼女がぽつりとこう言ったことがある。
「直哉さん、私も人間だから、あなたに惹かれたの。でも、これは絶対に秘密よ。でも…毎週金曜日だけは私だけの人になって。」
その言葉は、俺にとって魅惑の言葉でもあり安心も出来る、そして同時に深い後悔を呼び起こすものだった。芽衣の笑顔を見るたびに、俺は自分の行動を呪った。それでも、俺は金曜日の夜が近づくたびに早苗さんとの時間を待ち望んでしまう自分がいた。
ある夜、早苗さんが俺に自身の過去について語った。
「私が芽衣を育てるのは、本当に必死だったわ。夫を失った時、何もかもが崩れた気がして……でも芽衣だけは守らなきゃと思ったの。」
その言葉に、俺は彼女の内面に触れた気がした。彼女が芽衣を愛し、支えてきた強さを感じると同時に、彼女自身も一人の女性であることを忘れかけていたのだと気づかされた。
ある日、芽衣が体調が悪く早めに帰宅するという連絡が入った。俺は動揺しオロオロしていると、彼女は落ち着いた様子でこう囁いた。
「大丈夫よ。芽衣はちょっと体が弱いからね。私に任せて」
彼女のその自信がどこから来るのか、俺には分からなかった。俺といるときは女だが、芽衣といるときは完全に母になるのだ。ただただ、俺はその言葉に安堵感を覚えた。そして同時に、この関係がいつか大きな代償を伴うことを直感的に感じていた。
「お母さんがいてくれて本当に助かるよ。」芽衣が嬉しそうに微笑む。
「お母さんありがとう。いつも支えてくれて。」
「やめてよ。そんなこと言われると照れちゃうわ。」
早苗さんと芽衣が二人してはにかんだ笑顔を見せあっていた。その二人のやり取りに、俺の胸はキューと締め付けられる。
早苗さんとの関係を断ち切らなければならないと分かっているのに、その甘い罠から抜け出せない。この秘密は、俺たち家族の絆を崩壊させるかもしれない。それでも、俺はまた金曜日の夜が来るのを待ち望んでしまう。
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